北朝鮮は制裁を強化しても笑い続けている 制裁強化が体制強化につながっている事情
さらに金党委員長は、2016年5月の第7回党大会で経済政策について重要な方向性を提示した。農業部門の「圃田担当制」と企業部門の「社会主義企業経営責任制」がそれだ。
これは、社会主義的な「所有権」という問題を考えると、これまでの全人民的所有段階から一歩後退し、協同的所有段階へと踏み込んだ。これにより、生産力を高めようとする政策を駆使することを明らかにした。土地と工場は国家所有である一方、これを運営する主体は協同組合のような概念で存在する農民・労働者だ。
彼らが自律的に農場と工場を運営し、国家に対しては国家財産を使用する代価として約30%の成果を上納するようにした。残り70%は協同組合員の人件費や生産活動のための再投資などに活用できるようにした。中国資本の流入と所有権運営が柔軟性を利用し、非公式経済部門を公式経済部門へ編入させようとする政策を駆使し、それなりに成果が出ているようだ。
この政策が可能だった理由は二つある。まず、いったんは虚偽報告を徹底的に断罪していたことだ。これは、外部からは恐怖政治と見られるかもしれないが、実際にはこれまでの北朝鮮社会に蔓延していた虚偽報告という慣行を除去するためのものとも取れる。もう一つは、石炭輸出で財源不足を中国から補充したということだ。
だが、さらに注目すべきは炭鉱が正常化されたということだった。北朝鮮は十数年間、国内経済を正常化させるために努力してきた。特に農地整理作業や灌漑工事、中小型水力発電所建設などを行ってきたことが土台となり、金正恩時代に入って進められた新しい経済政策を実行できるようになった。
すなわち、圃田担当制を実施するためには、農地整理作業によって土地の再評価が優先されなければならない。農業生産性を高めるためには、単純に所有権を整理するだけでは問題は解決されない。灌漑水路の整備によって農業の生産性を高めうる社会的資本が拡充されてこそ可能だ。
企業部門では自律経営のため、市場での吸収力があるべきだ。2010年代以降、北朝鮮は工業製品の国産化を推進している。特に生活必需品を中心に国産化率を高めようとしている。このためには、電力の安定供給と財源の集中などが必要だが、北朝鮮は中小型発電機の輸入で電力不足を部分的に解決する一方、重厚長大型重化学工業に投入されていた財源の比重を軽工業分野に移した。これが農業・軽工業の優先政策という形態で示されている。
制裁も逆利用する北朝鮮
北朝鮮は制裁が強化されればされるほど、内心、笑っているだろう。その理由は、北朝鮮内部の市場化は、北朝鮮当局にとっては抑制すべき事態であるためだ。しかし、強制的に抑制すれば内部からの反発が避けられない。
そこで、各種政治行事を行うことで市場の資金を公式経済部門へ吸い上げている。2010年から2016年まで、石炭を輸出することで流入した外貨は約30億ドルになる。これまで存在していた10億ドルと合わせると、40億ドルの資金が北朝鮮内で流通していることになる。北朝鮮はこの資金を公式経済部門へ吸い上げれば、制裁に耐えられると見ているようだ。
反面、市場と関係する海外部門の活動が抑制されれば、自ずと市場拡大も抑制される。これこそ、中央の力が強化される結果になるだろう。北朝鮮の変化を進める市場が抑制されると同時に、金正恩政権の力が強化されるという逆説的な結果を招きうる。これこそ、北朝鮮当局が制裁を受けながらも、内心大笑いしている理由だ。今後5年間程度は耐えるだろう。核問題に対する突破口を模索することは、北朝鮮の本心ではないかもしれない。
北朝鮮の挑発に対する強力な制裁は必要だ。国際社会の健全な一員になるようにする強い圧力も必要だ。とはいえ、北朝鮮の変化を実質的に進めうる勢力まで弱体化させ、かえって権力を強化させることになるという逆説的な状況についても、深刻に考えるべきだ。テ・ヨンホ英国公使が米国下院の聴聞会で行った主張を考えてみるべきだ。「北朝鮮に大きな変化が起きており、中東のジャスミン革命も可能だろう。北朝鮮内部に情報を流入させる必要がある」。
制裁と圧力一辺倒の政策は、情報の流入を遮断し、ジャスミン革命を起こしうる勢力を弱体化させている。北朝鮮にジャスミン革命が起きるためには、もう少し資本家が成長すべきであり、情報流入ルートが拡張されるべきだ。それはまだ、足りないのが現状だ。
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