日本を舞台に選んだイスラエル起業家の決意 サイバー特殊部隊出身者が2国の架け橋に

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日本にある種のあこがれを抱いて思春期を過ごしたヨアブは、高校を卒業して兵役に就くためイスラエルに帰国した。イスラエルでは、18歳から徴兵制の対象となり、男性は3年間、女性も2年間の兵役が義務付けられている。

外交官の父のもと生まれたヨアブ。3人兄弟の末っ子として家族にかわいがられて育った(写真:ヨアブ氏提供)

ヨアブは、上位1%の優秀な成績(IQやリーダーシップなど)を収めた少数精鋭だけが集まる「8200部隊」の一員に選抜されることとなり、最先端のサイバー諜報活動の中でも、とりわけインテリジェンス分野のリサーチに携わった。8200部隊は2010年のイランにおけるウラン濃縮装置の破壊に関与したとされている。

「たとえば、ある情報を取りたいとしたら、その情報がどこにあるか、どこの国がどのような情報をどういった組織のなかで持っているのか、それらを丹念に見いだしていくことから始めます。そこから今後イスラエルが国として何を開発すべきかが見えてくるのです」(ヨアブ)

任務の詳細は国家の重要な機密事項のため、兵役を終えた今でも話すことはできないという。

しかし、8200部隊在籍中は、刺激的な体験の連続だった。例えば、世界のインテリジェンスが集う国際的なクローズドの会合に参加した時のこと。イギリスやアメリカなど他国の参加者が、自分よりひと回りもふた回りも年上の老練な面々であるのを目の当たりにした時は、高校を卒業して間もない自分が参加する状況と背負っている責任の重さに、改めて身震いしたという。

ヨアブは、若いうちにそうした国の重要任務の一端を担わされ、自分の認識やアイデアが問われるような環境下で訓練を積む8200部隊における経験が、のちに自らが起業家となる素地になったと振り返る。

「高校を卒業したての若者に対して、考えられないほどの責任が与えられる。上下関係もほとんどなく、発言が求められるのです。日本で仮にずっと教育を受けていたら、失敗や挫折をおそれて起業したいと考えることはなかったかもしれません」(ヨアブ氏)

また、閃いたアイデアは自ら提案し、自分が正しいと信じていれば上司に「モノ申す」ことも許される闊達な空気感がそこにはあるという。8200部隊のみならず、こうした「兵役」の存在が、イスラエル人の起業家精神を育くむ源泉になっているのではないかとヨアブは分析する。

兵役を終え戻った日本で感じた“違和感”

21歳で兵役を終える頃から、漠然と起業家への興味関心が湧き始めたヨアブは、その後イスラエルのデータ分析系のスタートアップ企業に就職した。そこでは、アメリカやヨーロッパ、インドなどに毎週のように出張を重ね、未知なる世界の知見を得るなかで、さらに学びへの意欲が湧き、テルアビブ大学へ進学。4年間法律を学び、晴れて弁護士資格も取得した。

そうした過程で思春期を過ごした“あこがれ”の国・日本を忘れることができず、起業家であふれかえるイスラエルで勝負をするよりも、日本という土俵で自分にしかできない新たなチャレンジをしてみたいという思いが強くなっていったという。

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