「セクハラ癖」は治療で改善できるものなのか 「治療する」と有名人は言うけれど
とはいえ、こうした中毒者向けアプローチが、性犯罪者にどのくらい効果があるかははっきりしない。とりわけ第2の、より深刻な性犯罪者グループへの効果は不透明だ。むしろこのグループは、正面から対決したほうが効果的なことが多いと、専門家は言う。
「多くのケースでは、逮捕されたり、仕事をクビになったりといった対決型の対応のほうが、問題行動を抑制または終わらせることができる」と、トロント・セクシュアリティ・センターのジェームズ・カンター所長は言う。財産や地位という意味で失うものが大きい場合はなおさらだ。
それでも不十分な場合は、セラピストの出番だ。性的暴力を振るった人は、「大したことではなかった」と言い訳をすることが多い。こうした人物には、もっと説明責任を持たせ、それが犯罪であることを明確にする言葉を使わせることが重要だと、リードは言う。
たとえば、加害者は自分の行動を「ちょっとやりすぎた」と説明するかもしれないが、「私は無理やり彼女のパンツに手を入れた」とか「彼女を襲った」と正しく表現させる。レイプ裁判を傍聴させることで、共感を培う方法もある。法廷では詳細な起訴事実を読み上げられ、「性犯罪の影響がオブラートに包まれずに語られる」から、「自分の行動が他人の人生をいかに永久に変えるかを理解する」手掛かりになるという。
だが、ロールプレイなどで被害者への共感を培おうとしても効果は薄いと、ロイヤル・オタワ・ヘルスケア・グループのマイケル・セト法廷リハビリ研究部長は語る。「他人に共感する方法を教えるのは難しい」と彼は言う。「共同作業的な方法ではなく、対決的な手法のほうが責任を認めさせやすい」。
長年の劣等感のリベンジ
再犯者については、セラピーでその人物の社会的思い込みを崩すことも効果があるかもしれないと、米心理学会のライトは言う。「たとえばセクハラ常習犯が、『私は彼女に触ったわけじゃないし、触ったとしてもソフトなタッチだから、誰も傷つけていない。大したことじゃない』と言う場合、その思い込みは誤解にすぎないと理解させることは可能だ」。
その思い込みを崩すことができたら、仕事や家族、評判を失ったときの喪失感を思い出させて、「自分を変えたい」という気持ちを高まらせる。何が自分を性的な問題行動に走らせるのか、自己分析させることも効果がある。そしてリラックスや瞑想など、気分転換するテクニックを教えるのだ。
セクハラ常習犯に決まったタイプは存在しない。逆の言い方をすると、社会的地位や経済力、見た目にかかわらず、セクハラ犯は存在する。その行為が部分的にでも、自分が認められていないという意識に根ざしているなら、伝統的な心理療法の効果が期待できると、専門家は言う。
長年劣等感を抱えてきた人が、一定のパワーを持つと、それが性的搾取の言い訳になる場合がある。「今度は俺が見下す番だ。高校で俺を無視した女を全員ひざまずかせてやる」というわけだ。
だが、セラピーが純粋な効果を発揮するのは、当事者が自分のしたことに本気で恐縮して、自分を変えたいと思っている場合だけだ。さもないと、反省しないどころか、また同じことを繰り返すおそれがある。
そういう人物はどうすれば見分けられるのか。「まだ診断法はないと思う」とカンターは言う。「間違いなく治療はない」。
(執筆:Benedict Carey記者、翻訳:藤原朝子)
© 2017 New York Times News Service
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