”中島らも”的な人材が育まれる土壌
――なるほど。受験エリートではダメなわけですね。
そうですね。「お勉強」的な価値観はあまり灘にはないと思います。世間から天才とか、神童とか、言われているかもしれませんが、イメージで言うと、全方位に能力を発揮するよりも、どこか一点飛び抜けている生徒が多い。
校訓としては「精力善用・自他共栄」を掲げています。どういう意味かと言うと、精力善用とは努力をして、自分の個性を存分に伸ばすという意味です。一方で、自他共栄とは、自分の個性を伸ばすことだけに執着するのではなく、他人の個性も尊重しなければならない。そういうことも重視しています。
自分の個性を磨き、他人の個性を尊重するという校風なわけですから、勉強ができないから下に見られるということもないと思います。私の同級生に中島らも君がいます。彼なんか典型的で、勉強以外の面で大きく花開きました。授業中もなんかオモロいことばっかりやっていて(笑)。彼みたいな人材は「灘ならでは」だと思います。灘には、そういう面白い人材が育まれる独特の“ゆとり”がありますね。
――確かに。最近だと文化祭で披露した「なだいろクローバーZ」の様子がネットで「ピンクの生徒がかわいい!」と、話題になりましたね。あれを仕掛けたのもTehu君という個性豊かな生徒でしたよね。
ええ。そうした取り組みができる遊び心も大事ですよね。「なだクロ」はかなりOBからの問い合わせがありましたね。
――やっぱり、お叱りの?
いえいえ、「面白いやつおるやんけ!」とか「やっぱ灘はええなー」とか、大半がそんな言葉でした(笑)。
――優秀でいて、独特のゆとりもある。どうしてこういう校風が醸成されるのでしょうか。
灘の「精力善用・自他共栄」という校是は創設者の嘉納治五郎先生が定めたものです。柔道家として有名な嘉納先生ですが、彼は当時としてはまれにみる国際人なんですよ。もともとは教育者で文部官僚でした。それにアジア初のIOC委員も務めました。結局、開催はされなかった1940年の東京五輪招致の際にも、流暢な英語演説を行ったことでも有名です。