日本銀行が、2013年に異次元の金融緩和政策を始めて、すでに5年弱が経過している。筆者自身は「異次元緩和」というよりも、他国同様の金融緩和を遅ればせながら行ったにすぎないと考えているが、世間ではこの金融緩和政策に対して批判的な意見がなお根強い。批判はいくつかに類型されるが、その中の1つに「金融緩和によって資産価格が上昇し経済格差が拡大する」、というものがある。
日本の家計の中では金融資産の保有にばらつきがあり、60歳以上の高齢世帯を中心とした限られた層が金融資産のかなりの部分を保有しているのは、よく知られている。株式など金融資産を持つ者と持たざる者の格差が、個人の資産選択に依存する部分が大きいとしても、株高によって短期的に広がるのは事実である。経済格差拡大がここ数年注目されているから、このわかりやすい点に目が行くのは仕方ないかもしれない。
この5年で「貧困率」は低下、「格差」は縮小している
だが、過去5年の日本経済を俯瞰すれば、筆者が「より深刻」と認識している「日本型の経済格差」は、実は縮小していることはあまり理解されていない。
「日本型の経済格差」については後述するが、まずは客観的なデータを紹介する。家計の可処分所得の格差を示す指数の1つとして、相対的貧困率がある。これは、所得の中央値(1人当たり245万円)の半分を下回る世帯の割合である。国別の相対比較などに使われる、いわゆる貧困率は、このデータである。
相対的な貧困率は、2012年に16.1%だったのが、2015年には15.6%に低下している(国民生活基礎調査より)。2012年とは、黒田東彦総裁体制となった日本銀行による金融緩和強化が実現した2013年の前年である。
つまり、金融緩和強化の後、2013年から2016年までに185万人就業者数が増え、低所得に直面していた非正規社員を中心に賃金が増え、その結果、家計全体が得る所得が増えたためである。金融緩和は、経済的にもっとも厳しい状況に直面する家計に手を差し伸べ、所得格差縮小をもたらす。2016年以降も、緩慢ながらも景気回復が続き、失業率低下など労働市場が一段と引き締まっているため、2017年末時点で日本の貧困率はさらに低下しているとみられる。
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