日本人が知らない「ネット覇権」の世界的闘争

欧米と中露がルールづくりでせめぎ合う理由

しかし、この米主導による国連のルール策定の取り組みは、2017年6月に開催された最後の会合で、事実上、崩壊した。と言うのも、これまで一貫して西側諸国が規範策定で主導権を握るのを警戒してきた中国やロシアが、GGEによる最終報告の合意に反発したからだ。

「自由なインターネット」に反対

実は中露はこれまで、米国主導のルール作りに反対するのみならず、自分たちが独自にまとめた行動規範を国連に提出してきた。その中で中露は、西側諸国が主張している国際法の適用には触れず、サイバー空間のための新しいルールの必要性を主張。また国家が国内の情報を統制する権利と責任をもつべきだ、と主張する。つまり有り体に言えば、国家による独裁的なインターネットの監視や検閲を正当化するという趣旨であり、現行の国際法や人権法とは違う独自の決まりを作るべきだ、と提案しているのである。

中露がサイバー空間を巡って欧米側に敵意をむき出しにしているのは、行動規範についてだけではない。先に述べたサイバー犯罪を国際的に規定するブダペスト条約も、両国は拒絶している。

その徹底した姿勢を見ると、よほど譲れないものがあるのだろうと思えるが、中露側は何を警戒しているのか。

そのヒントは、中国の習近平国家主席の2015年のスピーチにある。習主席は、米国がサイバー世界での主導権を掌握していることに不快感を示唆し、サイバー空間での自由なインターネット世界や、米国のインターネット覇権、そしてインターネットにおける内政干渉を非難する発言もしている。

中国に言わせれば、インターネットの国内での運用を国際的に“指導”されるのは主権侵害であると、特に米国の影響力を懸念している。またインターネットの影響力と普及率が高まっていることで、欧米流の自由なインターネットの利用を保証する方針は、独裁的な中国やロシアにとっては、政権維持への脅威なのである。

ただ中露が、サイバー空間である程度の発言力を求める理由もわからなくはない。というのも、世界のインターネットのユーザー数からすると、米国が主導してルールを策定するのはアンフェアだ、との見方もできなくはないからだ。現在、世界のインターネット利用者数は中露だけで全体の21%に達しており、アメリカは4.5%に過ぎない。またマルウェア(不正なプログラム)の出元や悪意あるインターネット活動の件数は、中露に引けを取らないくらい米国も多いという事実もある。

いずれにしても、国連のGGEによる6月の会合では、欧米側と中露が決裂。これを受け、米大統領補佐官(安全保障・対テロ担当)のトーマス・ボッサートは、「(国連のGGE以外の)ほかのアプローチを考慮すべき時だ。われわれは同じような考え方の小さなグループと手を組んで、悪事を非難し、敵に責任を負わせていくことになる」と発言している。

国際的な行動規範を作るはずが、決裂したことでさらに亀裂が深まっていると言っていい。今後こうした取り組みがどこに向かうのか、注目される。

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