日本人が知らない「アストンマーチン」の実像 イギリスの超高級スポーツカーの歩みと強み

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アストンマーティンは日本で「アストンマーチン」とも呼ばれている。正式な社名は「アストンマーティン・ラゴンダ」。1913年創業と今年で104年の歴史を持つ。最先端の技術を採用しながらも、熟練されたクラフトマンシップによるハンドメードを特徴とし、シンプルで優雅なスタイリングを特徴とする。

ゲイドンのリニューアルされたアッセンブリーライン(写真はアストンマーティン・ジャパン提供)

1963年に発表された「DB5」は映画007シリーズで主人公ジェームズ・ボンドが駆る「ボンドカー」に使用された、それ以降の続編においても大きな存在感を劇中で表していることで有名だ。現在は「DB11」「ラピードS」「ヴァンキッシュ S」「ヴァンテージ S」といったモデルが英国のゲイドンにて独自に設計・製造され、世界50カ国以上で販売されている。

近年、再びラグジュアリーカー・カテゴリーにおいて大きな存在感を持つようになったアストンマーティンであるが、かつては経営母体が幾度となく揺らいだ。一時期はジャガーなどと一緒にフォード傘下となった時期があったが、経営改革はなかなか進まなかった。

市場に求められるモデルを生み出すことができず、生産は滞り、品質低下を招いた。そのため、ロールス・ロイス、ジャガー、ミニなど主要なブランドは海外のオーナーの元へと移り、ローバーやMGのように消滅してしまうブランドも少なくなかった。

転機は2007年に訪れた。デイヴィッド・リチャーズやクウェート資本を中心とするファンドがアストンマーティン・ブランドを獲得し、積極的な投資を行う体制が確立。2014年にはアンディ・パーマーがCEOに起用された。

現経営陣は、近年のフェラーリなどスーパースポーツカーブームの流れに乗るべく、希少性を持った少量生産メーカーとしてアストンマーティンのブランドパワーを持ち上げるべく、新モデル開発のために途絶えていた投資を再開した。将来への拡大戦略を大きくアピールし、挑戦的な計画をいくつも実現した。開発体制も一新し、スタイリングやエンジニアリング開発から、生産までを内製化し、生産工場も最新鋭設備に入れ替えた。

ここ数年のうちに全世界の年間生産台数は7000台ほどになるとアストンマーティンは見込んでおり、生産拠点の拡大とともに1万2000台あたりがブランドとしての上限であると考えているようだ。

経営危機の時代にも安価なモデルには手を出さず

幸いアストンマーティンは経営危機の時代にも安価なモデルを生産するような、ブランドの希少性を下げることは行わなかったため、その根本的バリューは毀損されることなく保たれていた。

最先端の技術を採用しながらも、熟練されたクラフトマンシップによるハンドメードを特徴としている(写真はアストンマーティン・ジャパン提供)

私は強いブランドを築くには「独自性と持続性」「希少性」「伝説」が必要だと考えている。そのうち、アストンマーティンはしっかりとした「希少性」「伝説」を維持している。あとは「独自性と持続性」という要素をいかに再構築していくかという点にかかっている。その点において英国産であるアストンマーティンはイタリアやドイツとは異なった、特徴あるものづくりを行うことが可能なアドバンテージを持っている。

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