日本人が知らない「アストンマーチン」の実像 イギリスの超高級スポーツカーの歩みと強み

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そんなパーマーの個人的事情は別としても、アストンマーティンは日本市場になぜ注目するのであろうか。理由は3つある。まずは市場規模に対して日本はアストンマーティンを多く売るマーケットであり、ブランドを好意的に見る購買層が一定量以上存在するということだ。

日本にいるとあまり感じないが、日本人ほど世界各国の自動車、特にスポーツカーに関する知識を持った人種はいない。それは日本独自のスーパーカーブームによって刷り込まれ、鍛えられた、深い知識を持った自動車ファン層たちが購買ターゲットであるのも大きな理由だと私は考えている。

新型コンバーチブル、DB11 ヴォランテ(写真はアストンマーティン・ジャパン提供)

2つ目は、ラグジュアリーカー・マーケットが拡大している中、日本国内における新ブランドディーラーの開設熱が高まっていることが挙げられる。いくつものブランドのディーラーを経営する資本力のある“メガディーラー”が中小資本の独立系ディーラーを駆逐する流れが見られる現在、メガディーラーたちはブランド拡大のために投資を厭わない。今回のアストンマーティン東京を経営するスカイグループは日本国内に9ブランド、26ディーラーを持つ。

3つ目は日本のラグジュアリーカー・マーケットは現在の世界的トレンドほどSUVに偏向しておらず、スーパースポーツカーやアストンマーティンのようなグラントゥーリズモと呼ばれるクーペのマーケットも健在であるという点だ。つまり、日本のラグジュアリーカー・マーケットはアストンマーティンの目指すラインナップにぴったりなのだ。

ライバルメーカーたちがカバーできないジャンルを

アストンマーティン東京のオープニングに際して、パーマーCEOはこう語った。「これからアストンマーティンは3本の柱を持って開発していきます。スーパースポーツ、SUV、そして「ラゴンダ」ブランドとしてのラグジュアリーサルーン(高級4ドアセダン)です」。

そういう戦略において、まんべんなくターゲットが存在する日本は理想的なマーケットでもある。アストンマーティンのような希少性を重視するブランドにとって生産量を増やすということは諸刃の剣でもある。幸いなことに彼らはラグジュアリーサルーン(4ドアセダン)のブランドであるラゴンダも所有している。SUVも含め、ラグジュアリーカーの全カテゴリで限定された数量を販売し、総合的に販売量を拡大するという戦略を考えている。

それには少量生産車種を比較的ローコストで開発、製造することを可能とするイギリスのクルマづくりの環境も大いにプラスとなる。ライバルメーカーたちがカバーできないジャンルをもターゲットにする戦略ともいえる。

(写真はアストンマーティン・ジャパン提供)
越湖 信一 PRコンサルタント、EKKO PROJECT代表

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えっこ しんいち / Shinichi Ekko

イタリアのモデナ、トリノにおいて幅広い人脈を持つカー・ヒストリアン。前職であるレコード会社ディレクター時代には、世界各国のエンターテインメントビジネスにかかわりながら、ジャーナリスト、マセラティ・クラブ・オブ・ジャパン代表として自動車業界にかかわる。現在はビジネスコンサルタントおよびジャーナリスト活動の母体としてEKKO PROJECTを主宰。クラシックカー鑑定のオーソリティであるイタリアヒストリカセクレタ社の日本窓口も務める。著書に『Maserati Complete Guide』『Giorgetto Giugiaro 世紀のカーデザイナー』『フェラーリ・ランボルギーニ・マセラティ 伝説を生み出すブランディング』などがある。

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