沼津市の「泊まれる公園」は何がスゴイのか 欧州は森や公園を「使い倒す」のが当たり前だ

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野尻:木造や木工に関する職人さんたちのノウハウとかデザインって廃れつつあったようなイメージがあるよね。でも失われつつあった価値が見直され、新しい価値を付けて提供すれば40万円という対価もちゃんと付いてくるんだよね。

:そう。それからヒダクマでは、組木のさまざまなパターンについて3Dのデータベースを作っています。そういうものを使って、新しい建築のあり方、家具のあり方について一緒に考えることもできるんです。

馬場:組木の「“ほぞ”(接合するためにつくった突起部分)が上手に切れる」というのは職人技だけど、デジタル・ファブリケーションのマシンも活かせば、複雑なほぞも、切れるようになりますよね。

:でも、学生が練習してやってみてもずれるんです。それを大工さんがやると木材と木材がピタッとはまる。すると「やっぱり大工さんはすごい」となるわけ。だからヒダクマの取り組みって、これまでの大工さんを不要にするのではなく、若い建築家たちが「大工さんはすごい」と再認識する接点にもなるんです。

沼津市「INN THE PARK」が日本の突破口に

――最後に国内事例をもう1つ。静岡県沼津市の、泊まれる公園「INN THE PARK」です。もともとは沼津市の「沼津市立少年自然の家」という施設でしたが、使用されなくなって民間に貸し出されています。これは馬場さんが参画しているプロジェクトですね。

馬場:「INN THE PARK」は、使われなくなった公的施設の物件情報を提供している公共R不動産に、「赤字続きの『少年自然の家』の買い手を見つけてほしい」という依頼があって、公共R不動産のウェブ上で募集をかけたのですが、それを見ていたら、なんと僕の会社でも「これ、いいよね」っていうことになって、つい自分たちも応募してしまったんです。そうしたら手を上げたのがうちだけだった(苦笑)。それでうちでやることになってしまった案件です(笑)。

もともとは、小学生が宿泊に使っていた木造の古い建物だったんですが、最小限のリノベーションをほどこしました。ただ、主役はリノベ云々じゃない。目の前にある、広大な公園なんです。「INN THE PARK」は「公園に泊まろう」をテーマにして、公園をどこまで使い倒せるかの実験をやっていきたいと思っています。

野尻:私たちの会社が経営している「トランクホテル」は、実は「出張ホテル」(ラグジュアリーなキャンプなどを現地でこしらえること)もやっているんです。もし、ここで出張ホテルをやったら何千人も連れていけると思う。フェスとかやっちゃってもいいですか?

:フェス、やってほしい! 私、フジロック・フェスティバルにも1度行ってみたいと思っているんだけど、何しろ人が多いでしょう。私くらいの年になると、ちょっと気後れしちゃって。ここで大人向けのフェスとかやってほしいな。

馬場:「公園の中で何が出来るか」という実験には、沼津市も前向きに検討してくれているので、フェスも可能かもしれない。フジロックほど大きな規模ではやれないけれど、ちょっと高い年齢層向けのフェスだったらサイズ的にもちょうどいいですね。フェスの後に、焚き火を囲んで、飲んで、だべって、寝る、という楽しみ方もできる。

:こういう新しい使い方を実現するには、やっぱり所有と利用を分けてもらわないと、なかなか実現しないんですよね。日本でも、沼津市のようなケースを当たり前のようにしたいですね。

本記事は「第8回パブリック・アライアンス・トーク」のライブをもとに再構成したものです。施設のリノベーションなど、パブリック・アライアンスへのお問い合わせはこちら
阿部 崇 ジャーナリスト

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あべ たかし / Takashi Abe

1969年福島県生まれ。経済誌記者を経てフリーに。現在は週刊誌を中心に活動中。

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