セクハラが隠蔽されてしまう広告代理店の闇 「私は守秘契約を結んで会社を辞めた」
また被害者と加害者の水掛け論になってしまうような状況に至っては、上司や役員レベルの人間は個人的には申告してきた女性をサポートしても、公の場になると態度を翻すことも多い。
前述の西海岸のエージェンシーの女性エグゼクティブがクライアントに対して謝罪をしたとき、彼のことをビッチと呼んだことを後悔している、というような遠回しな言い方をしたという。
「彼は大したことじゃないと笑ったけど、侮蔑されたと感じたからわざわざ告げ口をしたのよ」
セクハラが起きやすい業界の体質
エージェンシーはビジネス上の理由から、「働いていて楽しい職場」であろうと必死になる。ハッピーアワーやオフィス内での飲酒も珍しくない。各種アワードの授賞式もたくさんある。カンヌだって例外ではない。カンヌのレッドカーペットでセックスをしているカップルが写真を撮られたこともある。「一体私たちはなんて人間なの? ほかのどんな業界でこんなことが起きるというの?」と、先ほどのエグゼクティブは言う。
ニューヨークの女性エグゼクティブは、セクハラの文化があるというより、セクハラが起きやすい業界の体質にあるという。「パーティーをしていれば、皆酔っ払うし、いろいろなことが起こる。いい付き合いが生まれることもあるけど、悪い状況になることもある。ただそうなってもその場の空気に従うしかないというプレッシャーを感じることが多い」。
ある男性のエージェンシー役員に、この業界の文化がセクハラを許容していると思うかと尋ねたところ、彼はビデオ付きのテキストメッセージで回答をよこしてきた。それは制作会社が主催したカンヌのビーチパーティーで、踊り回るカップルで溢れかえったダンスフロアを写していた。「これは質問の回答になっている?」
彼は勘違いしている。問題は業界がパーティー好きということではない。ある女性社員は、アルコールですべて片付けられると語る。その結果、セクハラが起こりやすい状況を作っているという。「ガラス張りのオフィスに座っていて、誰かのデスクの上には3本のワインの空き瓶が見える。呑む文化があるし、飲酒中に何か悪いことが起これば『ああ、あれはテキーラのせいだよ』のひと言で片付けられてしまう」。
出張も多い。特にクライアントと会うような役職はそうだ。インタビューに答えてくれた2人の女性は同僚たちが「ホテルの部屋まで送ってあげる」という口実のもと、セックスをしようとしてきた例を語ってくれた。ある女性は、出張中、彼女の上司のホテルの部屋で仕事のミーティングをするから来るように言われたという。そして部屋に行くとその上司はバスローブだけを身に着けた姿でドアを開けたという。