セクハラが隠蔽されてしまう広告代理店の闇 「私は守秘契約を結んで会社を辞めた」
米DIGIDAYではセクハラの被害に遭った女性たちに実名で語ってもらうことはできなかった。その理由として訴訟や報復への恐怖があげられた。また自分たちの被害を公に語っても何も変わらないだろうという者もいた。
「あらゆる場面で目にしてきた」と語ったのは西海岸のエージェンシーの女性エグゼクティブだ。
「エッフィー賞(Effie Awards)の授賞式に私はローカットのVネックドレスを着ていった。他社のエージェンシーのグローバル幹部の男性は、私の胸元を見て『ボナーガレージ(boner garage:勃起したペニスを差し込むところ、という意味の性的なスラング)』と言ってきた。そのときはその言葉の意味を知らなかったから、相手にせず無視したけど」
しかし、彼女が体験したもののなかで一番ひどかったのは数年前のカンヌでの出来事だ。ディナー中に、クライアントが彼女の身体を触りはじめ、性的な発言をしはじめたのだ。このクライアントはこれまでもボディタッチをよくしてくる人物だったという。彼女はその場で、「バカなことは止して」と忠告したが、その2日後上司に呼び出されクライアントに謝罪するように言われたのだ。
パワーバランスの不均衡
エージェンシーにおけるパワーバランスの不均衡が、セクハラを許容する結果につながっていると女性たちは言う。「代理店はクライアントに従う立場。このパワーバランスの不均衡は業界内にはびこっている」。
ある別の女性エグゼクティブは、「こんな事を言うのは嫌だけど、私の役職において女性であることは役に立つといつも思ってきた。私はいつも男性上司に対して従順に接してきた」と語る。
「上司は(セクハラ的な)間違ったことはしてない。でもイベントに行けば私は彼のためにドリンクを取ってくる。それによって気に入ってもらえる。私も彼より人間として劣っていると感じるわけじゃない。ただ歪んでいるのは、そうすることで私の評価は上がるし、彼も気分を良くするということ。男性なら私の役職にいても同じことはしないだろう」
同様のことをクライアント側からも要求される。代理店はあくまでクライアントの代理店でしかない。PRやコミュニケーション、アカウントサービスなどクライアントを満足させることが最優先の部署には女性が多い。セクハラが続くのはトップが容認したり強制しているからだけではない。加害者側が力を持った立場にいるため、セクハラをしても罰されることがないと感じているからだ。