うつ社員を多く出す会社ができていない基本 産業医の力を借り、初期のサインに気づこう

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実際、私は規模・業種を問わずさまざまな企業を見てきましたが、企業のメンタルヘルス対策は、できている企業とそうでない企業で2極化しているようです。

ある大手小売企業のA社では、メンタルヘルス対策の一環として、メンタルヘルスの相談窓口を人事に設けていました。そこに届くメールは月2~3件。自分は“躁うつ病”なのではないかという相談や、部下からメンタルヘルスの相談を受けたという上司からの悩みが寄せられます。

ところが、窓口となっている当の人事担当は、メンタルヘルス対策のプロではありません。場当たり的な対応をせざるをえず、何の解決にも至っていないという課題を感じていたそうです。

また、コールセンターを主体とするB社では、メンタル不調者がコールセンターに勤務している従業員に集中していることを問題に感じていました。休職者もひっきりなしに出ているそうです。担当者は会社近隣のメンタルクリニックに、どうすればメンタル不調者をなくすことができるか相談に行きましたが、的を射た答えは得られませんでした。

こうした会社に有効な一手が「産業医」の力を借りることです。産業医は、労働者50人以上の事業場に選任が義務づけられている医師。企業側でも労働者側でもない中立の立場から、不調者への対応や、そもそも不調者が出ないように職場環境を整えるためのアドバイスを企業に行います。

多くの企業で産業医を担ってきたさくら事務所の山越志保さんは、前出の2社に対して以下のようなアドバイスをしています。

それぞれの会社へのアドバイスは

【A社へのアドバイス】
「人事担当の方にメンタルヘルス対策の知識を身に付けるよう、研修を受けてもらうとよいでしょう。そして、場合によっては、産業医に相談し、つなげたほうがいいと思います。
人事担当者が相談を受けていく中で自分自身、メンタルヘルスに不調をきたしてしまうという話もよくあるため、担当者自身も1人の労働者。本人もメンタルヘルスのセルフケアを学ぶ必要があります」
【B社へのアドバイス】
「相談する先が間違っています。メンタルクリニックの医師は臨床医。メンタル疾患などの病気を診断し、治療をする、つまり“疾病性”を診るのが臨床医の仕事。職場環境に向けて、メンタル不調者への具体的な対応策をアドバイスすることは実際には難しいことが多いのです。
疾病性とは、「抑うつ的」「意欲低下」「寝つきが悪い、早朝に目が覚めるなどの睡眠障害」「幻聴がある」などの疾病・病気に基づく症状や客観的な不健康状態であり、診断や治療に関することをいいます。
一方で、企業にいる産業医は、不調者にとって業務上何が問題になっているのか原因を探り、これ以上悪化しないように対応をアドバイスすること、そして今後同様の不調者が出ないように職場環境を改善することが仕事となります。これを“事例性”といいます。臨床医は“疾病性”を診る、一方で産業医は“事例性”を視るという違いがあるのです」
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