「昨夜、高村と話をしました。彼は、中西様にお見合いのときからひと目ぼれをし、初めてのデートにもかかわらず、好きだという感情が抑えきれなくなったようです。彼は、このまま中西様との結婚を真剣に考えたいと申しております。決して中途半端な気持ちではないそうです。このまま2人を温かく見守っていただけないでしょうか?」
お互いに“ひと目ぼれ”なら、外野がとやかくいうのはやぼだろう。ちょっと話がうますぎる感はあったが、しばらくは見守ることにした。
「これって結婚詐欺!?」
では、なぜ京香は高村を結婚詐欺だと思ったのか?
「実は、この間のデートのときに、彼が貯蓄型の生命保険の加入を勧めてきたんです」
高村は、大手生命保険会社で働いていた。
「毎月3万円弱支払う保険でした。契約が取れれば、彼の営業成績になりますよね。ただ今どき3万円の保険料って高いし、結婚して仕事をセーブしないといけなくなったら、払い続けられるかどうか。家計も圧迫します。しかも、その保険を勧めてきたのが、ホテルの部屋だったんですよ」
「ホ、ホテル~? あなたたち、もうそういう関係になっていたの?」
私は、少し呆れた声をあげた。いくら相手の相談所に、「真剣です」と言われても、高村からはまだプロポーズをされていないのだ。
「入会する前に、規約の話はしたわよね。“男女の関係”イコール“成婚”よ。プロポーズをされていないのにホテルに行くなんて」
「すいません。だから、そういう関係になったことを鎌田さんには言えなかったんですけど」
京香は、申し訳なさそうな声を出した。
結婚詐欺師の場合、甘い言葉で近づき、体の関係ができて気持ちをつかんでから、だましの計画に取り掛かる。何百万という借金の申し入れやマンションなどの高額商品購入を持ちかけるのは最も悪質であるが、保険への加入、ネットワーク系の自己啓発セミナーや会員制旅行クラブへの勧誘なども、よく聞く話だ。
以前、私の相談所に入会面談に来た女性(結局入会しなかったが)も、婚活パーティで出会った保険会社に勤める男性に、体の関係になった後、ホテルで生命保険の加入を勧められた。彼女は彼の機嫌を損ないたくないために、2万円弱の保険を契約してしまった。契約が取れた途端彼は、「仕事が忙しい」を言い訳に会おうとしなくなった。その後、LINEが既読にならなくなり(おそらくブロックされた)、電話をかけても出ることはなく留守電につながるようになったという。
私が、「それは、おかしい。会社の“お客様窓口”に伝えたほうがいいんじゃないですか?」と助言すると、「自分の恥をさらすようなことはしたくないんです。貯蓄型だから毎月2万円を貯金していると思えばいいかなって。だまされた私も悪いですから」と、寂しそうに言った。
高村の行動は、このケースに似ているではないか。初日のデートからキスをし、瞬く間に男女の関係になり、保険の契約を迫る。
ただ違うのは、京香はその契約話を断っていたことだ。
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