旅客機開発競争・外伝~職人ボーイングvsハイテク主義エアバス

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この間、長く王者として君臨したB747機は、燃費のいい後継機へと世代交代が進み、貨物機への転用が多くなった。その中で、エアバスに登場したのが総2階建て、標準座席数525席という巨人機A380だ。07年にはシンガポール航空のシドニー便、エミレーツ航空もニューヨーク便などに就航させている。 

では、対するボーイングはA380の対抗機を開発しているのか。答えはノーだ。標準座席数が525席にもなる巨人機はそう数が売れるものではない。A380は開発着手から8年かかって、やっと200機売れたところで、一般的に新機種は最低300機売れないと利益は出ない。対抗機を開発しても黒字機種になる可能性は低いというわけだ。

ボーイングも対抗策がなかったわけではない。B747改良型のB747Xやソニック・クルーザーという亜音速機を計画するも関心を得られず、そこで登場したのがB767の後継となる中型のB787なのである。複合材を大幅に採用した身軽で軽い機体に燃費のいい強力なエンジンを装備する。その手軽な大きさや燃費のよさに、初飛行前から900機近い受注を得ている。崖っ縁で生まれたB787だが、燃料高騰が追い風になったともいえるだろう。

ボーイングとエアバス、実はその設計思想はかなり異なっている。前述のとおり、エアバスではA320以降はすべてFBW方式で、ほとんどの機種に操縦桿がない。エアバス機は操縦方法が極めて似ていて、パイロットは複数機種の運航に携わることが容易である。一方、ボーイングがFBW方式を採用しているのはB777とB787のみである。

極端な一社依存は航空業界の利にならない

この操縦システムに関しては、よく「人間優先のボーイング、機械優先のエアバス」と言われる。スポーツの審判に例えると、ボーイングが審判の技量に任せる方法なら、エアバスは最初からビデオ判定を用いる方法で「機械でできる部分は機械で」という考え方だ。またボーイングが機種ごとに「その用途で現時点のベストなものを」という発想なのに対し、エアバスは最大公約数的な仕様をベースに、各用途ごとの機体を開発、効率重視といえる。

現在、両者の受注シェアはほぼ拮抗している。ところが、この割合に合致しない経済大国が世界に一つだけある。それが日本だ。

日本航空は世界の有力航空会社で唯一、エアバスを発注した経験が一度もない(A300を国内線に運航しているが、それは旧日本エアシステムの発注)。全日空も国内線と近距離国際線にA320を運航するが、エアバスの大型機の発注経験はない。そしてJAL、ANAとも現在運航しているエアバス機の後継機はボーイング機と決まっている。

では、アメリカはどうかというと、ユナイテッドは国内線にエアバスを100機以上運航しているし、ノースウエストの日本便は約半分がエアバス機。USエアウェイズも看板路線の大西洋便をエアバスで運航している。逆に欧州では、エールフランスのボーイング機比率は決して低くないし、ルフトハンザも多くのボーイング機を運航している。ちなみに同社は、次世代ジャンボ機の旅客型を発注している唯一の航空会社だ。

そのほか中国では、このところ毎年のように双方へ大量発注をかけている。B787もまとまった数だが、A320ファミリーなど何百機単位である。一見効率が悪そうに思えるが、こうすることで05年にA320ファミリーの中国組立工場建設や技術供与の約束を取り付け、今年天津で工場が稼働、09年には第1号の機体が出荷される予定だ。

日系航空会社は一社の機材にそろえることで、部品の互換性、パイロット訓練やメンテナンス技術の養成が有利な点を重視しているが、それはしょせん、その会社一社の利益にしかつながらず、長い目で見た場合の利益はまた別のように感じる。そういった面から見ると、両社を競争させることが業界全体にとってはプラスになるであろう。現在ANAはB787の納期遅れに業を煮やし、A380導入の本格検討に入っているが、「ボーイングだけがすべてではない」という意思表示をする意味でも、日本の航空業界にとっては歓迎されることではないだろうか。

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