最新鋭機開発で混乱続くボーイングとエアバス--振り回される日本企業の苦悩


2人の巨人の煩悶 工場売却とカミナリ対策

敵のピンチは味方のチャンス。エアバスはここを先途と、A380の売り込みに熱が入っている。昨年10月就航したシンガポール航空の実績が格好の宣伝材料だ。「シドニー線は早朝にもかかわらず、90%の搭乗率。ファースト、ビジネスクラスは10~15%料金が割高だが、つねに満席。ビジネスの座席も、他機のビジネスクラスの2人分の広さがありますから」(エアバス・ジャパン)。

7月の英ファンボローのエアショーでも新たに10機成約。ついに、787のローンチカスタマーの全日空さえA380の購入検討に入った。

エアラインの経営状況が急悪化しつつあるのに、エアバス全体の受注機数も1~7月累計で754機、去年の勢いがまだ続いている。一見、上げ潮ムードだが、一皮めくると、エアバスも混乱の最中にある。

何より、A380の量産体制がいまだに整わない。今年13機の納入予定を12機に、来年25機を21機にそれぞれ引き下げた。いつ月産4機のフル生産に移れるのか、皆目わからない。A380の初納入が2年遅れたのは、総延長500キロメートルに及ぶ配線の設計ミスが原因だが、新方式に改めた「ウェーブ�」でも、まだ配線に手こずっている。

さらに深刻なのは、リストラが思うように進んでいないことだ。10年までに人員1万人、コスト21億ユーロを削減する合理化計画「パワー8」の成否は、全16工場のうち6工場を売却できるかどうか、にかかっている。最近、1工場の売却が決まったものの、5工場は宙に浮いたまま。

工場を売却すれば、工場売却資金をA350XWBの開発資金の一部に充て、新しいパートナーを募ることで自らの資金リスクを引き下げられる、さらには数千人分の仕事量をユーロ圏以外の地に移し、ドル安にも対処できるはず、だったのだ。

何しろ、「パワー8」策定時の想定レートは1ユーロ=1・35ドル。航空機の商売はドル建ての世界であり、ドル安が10セント進むごとに、エアバスの赤字が16億ドル膨らむことになる(時価は1ユーロ=1・41ドル)。7月にはA380のプログラム責任者が交代する事態となった。

一方、ボーイングの787。5月に入って、現場の混乱はようやく収束に向かいつつある。初飛行への通過点である「パワー・オン」(システムへの通電)、「ギア・アップ」(脚の出し入れ)を初号機が相次いでクリア。早ければ、10月にも待望の初飛行を迎えることになる。

昨年10月、787のプログラム責任者を引き継いだ名うてのトラブル・シューター、パトリック・シャナハン副社長が本誌のインタビューに答えて言う。「多くの改善が行われ、進捗は予想以上。仕事ぶりは安定しチーム内のストレスも減少している。モチベーションは高まった」。

だが、初飛行の後には、FAA(米連邦航空局)の型式証明取得という最大の難関が控えている。来年の第3四半期に初納入するとすれば、初飛行から1年弱で型式証明を取得しなければならない計算になる。A380は1年8カ月かかった。初のカーボン・プレーンの安全確認がそうすんなり進むかどうか、である。

焦点は、カミナリ対策だ。アルミ合金なら落雷しても電気が拡散するが、炭素繊維複合材は衝撃で損傷するリスクがある。もちろん787は胴体には銅線を、翼には薄いアルミを織り込む対策を講じているが、それで十分か。とりわけ、FAAは燃料タンクを兼ねる主翼の安全性に注目すると見られている。「FAAがどこまで要求してくるか、わからない。が、(ボーイングが)試験を重ねている。大丈夫」(日本企業幹部)。

間の悪いことに、9月6日、ボーイングの最大労組(2・7万人)が賃金・年金の増額回答を不満としてストライキに突入した。787には再遅延の危機だが、実は、遅延は悪いことだけではない。

スケジュールが後ろ倒しになったおかげで、サプライヤーに余裕ができた。量産体制の構築に向け、じっくり人も育てられる。「変なモノを造って手直しするのは大変。正直、その危険があった。が、それを防止できた。トラベル・ワークもずっと減った。09年の25機生産体制には自信あり」(日本企業幹部)。

あの747が開発最終段階に向かっていたとき、ボーイングの財務状況はパンク寸前だった。07年末、ボーイングは04年の倍以上、70億ドルのキャッシュを抱えている。納入遅延で不満を鳴らすエアラインも、実は、まだボーイングを信じている。その証拠に、787はいまだに1機もキャンセルされていない。

「このプロジェクトで失敗したら、ボーイングは民間機から撤退、ということになる。その可能性は無限にゼロ」(商社幹部)。もちろん、そのとおり。だが、エアバスともども、2人の巨人がピーンと張った細いロープの上を、ソロリソロリと進んでいることだけは、間違いない。

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