最新鋭機開発で混乱続くボーイングとエアバス--振り回される日本企業の苦悩
ボーイング787のローンチカスタマー(最初の発注者)、全日本空輸は信じていた。「状況はつかんでいた。しかし、最終的には人を何倍投入してもやってくれる。最後まで信じていた」。
ボーイングはメンツにかけて、3度目の遅延は絶対やらない--。ライバル、エアバスは超ジャンボ機A380の納入を計3回、2年近く遅らせ、一時、その信頼は地に墜ちた。ボーイングはそれを見ている。
ところが、3度目が起こってしまった。4月、ボーイングは787(250席)の初飛行を今年第4四半期に、初納入を来年第3四半期にそれぞれ延期すると発表した。15カ月の遅れ。全日空にすれば「いい加減にしてくれ」だ。
初納入だけではない。ボーイングは当初、787の生産機数を翌年からは年間112機とすると公表していた。3度目の遅延発表と同時に、それを25機に訂正。5分の1へのペースダウンである。
機体の編成計画も、パイロットの養成計画も、すべてが狂ってしまう。全日空が発注した50機をすべて手にするのは、いったい、いつの日になるのか。
「仕事を持ってきて」始まった補償交渉
787はボーイングと日本の「栄光」を象徴する最新鋭機である。
まだ飛んでもいないのに、現在の受注機数は896機。運航中の777(365席)の機数を大きく上回った。リスト価格で推定総額1515億ドル(16兆円)。史上最速のスピードで注文を積み上げ、世界で初めて重量の50%を炭素繊維複合材で造る「カーボン・プレーン」である。その787の開発・生産に日本のメーカーが35%のシェアで参加している。35%は元締めボーイングと同じ。だからこそ、日本は混乱した。
787のギャレー(厨房)、ラバトリー(化粧室)を一手に引き受けるジャムコ。6月上旬、新潟県村上市でハニカムコアの新工場を竣工した。「本来なら、今頃は787向けに高水準の稼働のはずだったが、状況が変わってしまって。ボーイングと丁々発止の交渉をやってはいるが」。あいさつに立った寺田修社長の言葉は湿りがちだった。
ハニカムコアはアラミド繊維に樹脂を含浸させ、ハチの巣状にした素材でギャレーなどの軽量化の決め手になる。新工場竣工で生産能力は倍増するのに、787の生産計画の大下方修正。新工場を含め787のために25億円の投資に踏み切ったジャムコはこの第1四半期、5億円の営業赤字に転落した(前年同期は5億円の営業黒字)。
「協力工場にも、この1年は頑張りましょう、と言っている。ボーイングは、『ジャムコはサプライヤーの中でもトップクラス』と言ってくれる。そんなことより、早く仕事を持ってきて」(寺田社長)。
787の主翼を担当する三菱重工業は、ボーイングの、「いきなり112機量産計画」に疑問符を抱いていた。年産112機といえば、月産9機以上。十分こなれた777でさえ、ピークの月産機数は7機止まりだ。「そんな野心的な計画が実現できるのか。不安はあった。が、本家本元のボーイングが言っている。とにかくついていかねば」(三菱重工・川井昭陽常務)。
787の前胴を担当する川崎重工業は今年1月末、名古屋の第2新工場建設を発表した。投資額200億円。ボーイングの3度目の遅延発表の2カ月前という間の悪さだ。「機械の導入は後倒しにする。鋼材価格が急騰している。建屋を早めに建てるのは悪くないかもしれない」(川崎重工・元山近思常務)。そうとでも考えなければ、収まりがつかない。
同じ川重で787向けのジェットエンジン「トレント1000」の中圧コンプレッサーを一貫生産している西神第2工場。この工場自体、一昨年竣工したばかりだが、25台出荷したところでコンプレッサーの生産が止まり、組み立てラインの照明は普段は消されたままである。
だが、日本以上に大変なのは、もちろん、元締めのボーイングだ。
787は燃費の2割向上をうたっている。石油価格が暴騰する中、エアラインの“逸失利益”に対する思いと怒りは募るばかり。ボーイングのランディ・ティンセス副社長が言う。「エアラインに新しい納入スケジュールを提示し、それを基にインパクトを評価してもらう。別の機体に切り替えるか、リースするか、賠償なのか、話し合うことになる」。
交渉のトップバッターは全日空だ。「つなぎの機材や、パイロットの訓練機器のスロット費用はどうするか。(逸失利益の)補償も当然、入ってくる。おおむね(ボーイングは)答えてきている。金額は交渉中だが」。要求は数十項目に及ぶ。「修理に出した自動車の代車はタダ。こちらの気持ちとしては、つなぎの機材もタダにしてもらいたい」(全日空幹部)。