企業物価は9年ぶりの上昇率、その効果は? 消費者物価上昇率はなかなか上がらないのに
輸出物価と輸入物価の差にも注目すべきだろう。今回の10月速報値では、輸出物価は円ベースで前年同月比9.7%上昇、輸入物価は15.3%上昇と輸入物価の方が大きく上がっている。原油高が進んだ9月、10月にかけて日本企業にとっての交易条件は悪化している。
輸入サイドでは、原油の上昇の影響を企業から家計まで幅広く受けているが、輸出サイドの価格上昇は限定的で、国内での負担感は強くなっている。
交易条件悪化で苦しむ内需中心の中小企業
こうした環境下で最も負の影響を受けているのは、内需中心の中小企業だ。コスト面での増加に加え、国内需要も縮小傾向にあり、厳しい状況に陥っている。
コスト増による中小企業の苦戦を解消するには、内需の改善により消費者物価が上昇するか、もしくは大企業や輸出企業からの還元が必要だ。しかし内需の面では、実質賃金は9月にマイナス0.1%をつけているので、価格転嫁は難しい。
とすれば、目下業績を伸ばしている大企業に期待がかかるが、いわゆる「トリクルダウン」は起きていない。大企業は拠点を海外へ移し、現地生産・現地販売を進めている。大企業が得た利益のうち、国内中小企業に還元される割合は減少してきている。
大企業が潤えば中小企業や労働者にも利益が均霑(きんてん)されるという「トリクルダウン」が起きるとするアベノミクスの理屈は構造的に欠陥を抱えており、国内中小企業にとってはむしろ大きな痛手となってしまっている。現状はコストプッシュ型インフレの悪い側面だけが効果を発揮している。
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