選挙目当ての減税は愚策 国民は政治家見抜く眼力を--石弘光・放送大学学長
--増え続ける社会保障費は、どの税で対応すべきでしょうか。
所得税や法人税ではないでしょう。ましてやたばこ税ではない。国民がオールジャパンで負担する税となると、やはり消費税しかありません。ヨーロッパの福祉国家は皆、消費税と同じ種類の付加価値税でやっているわけです。法人税では赤字法人、所得税では課税最低限以下が対象外となってしまう。消費税は大衆課税だと批判されるけれども、社会保障の給付を受ける側も高齢者や低所得者が圧倒的に多いのだから、皆で支えようとなると消費税しかないわけです。
--所得税など、ほかの税の見直しの必要性はありませんか。
所得税は控除をなるべく少なくして、課税ベースを広くすべき。日本はレーガンやサッチャー改革をまねて、80~90年代に累進税率のフラット化を進めたが、ちょっとやりすぎた。その結果、10%以下の低税率の人が8割もいる(右表参照)。そして、税率を下げた一方で、課税ベースの拡大が行われなかった。課税ベースが広がらないということは特例がいっぱい残っているということで、税制の中立性が保てない。
これまでのバラまき減税の二大潮流が、所得税の定率減税と証券税制ですよ。定率減税は廃止されましたが、株式配当やキャピタルゲインの税率は10%と低すぎる。これを20%に戻したうえで、金融所得課税の一元化を図るべき。ところが、また今回、「証券版マル優」などという名目で、高齢者向け減税が浮上しています。
格差是正、資産再分配という視点から、相続税の課税強化もあっていい。現在は100人の死亡に対して、4人の割合しか相続税を納めていない。せめて10人くらいは納めるようにしてもいいと思います。
--しかし、負担増への合意取り付けは容易ではないですね。
戦後の日本では、減税や増税と減税の組み合わせはあっても、所得税など基幹税のネット増税は一度もなかったと思います。しかし、増え続ける社会保障の財源を確保し、国民にとって必要な医療や介護の費用を賄うためにも、増税は避けられなくなっています。政治家は基本的に減税待望論者で、増税拒否者なんです。しかし、減税だけ主張している政治家は、北欧などでは落選します。国民がどう審判を下すかという命題が試されているんです。
(岡田広行 撮影:吉野純治、谷川真紀子 =週刊東洋経済)
いし・ひろみつ
1937年生まれ。一橋大学教授・学長などを経て現職。2000~06年の間、政府税制調査会会長を務める。主著に『現代税制改革史』(小社刊)など。
(インタビューは、9月上旬に行われました)
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