選挙目当ての減税は愚策 国民は政治家見抜く眼力を--石弘光・放送大学学長
財務省を中心とする官僚支配があるから無駄を省けないというのが、小沢氏の主張です。それならば明治以来やってきた、旧大蔵省主計局が査定し、与党と一緒に予算を編成するという仕組みを具体的にどう変えるつもりなのか。小沢氏は、予算編成過程を変革すれば、おのずから各政策に優先度がついて無駄が省けるという。小沢氏にそんな力があるのでしょうか。財務省を解体するのならば、その受け皿をどうするつもりなのか。財務省を解体して、予算庁を作るというのならば、国民にはっきりと方針を説明するべきです。
--昨年の参院選のマニフェストと同様のものを出した場合に、民主党は解散総選挙で勝てますか。
それでは責任政党の資格がなくなると思いますね。つまり、自民党は財源論や消費税まで議論しようというんでしょう。片や、それをぼかしたまま、無駄を排除すれば済むとか、われわれが政権を取れば、優先順位をつけるので大丈夫という程度でお茶を濁すなら問題ですよ。それでは政権担当能力はないと言わざるをえない。党内で政策論争もせず、小沢氏の対抗馬を立てることもできなかった民主党は今、後悔していると思いますよ。
--総選挙後に、財政再建の道筋はどうつけるべきでしょうか。
景気の悪化により、2011年度のプライマリーバランス(基礎的財政収支)の均衡化のための条件はかなり変わってきた。11年度のターゲットをどうするかの議論を踏まえつつ、中長期的な視点をもっと表に出した形での政策論争をすべきです。そのためには税制改革が最も重要です。景気が悪いから議論をしちゃいけないというわけではなく、今からきちんと議論をしておくべきですよ。景気が上向いて、マクロ経済的にある程度増税に耐えられる環境になってから議論をし始めるから、議論の途中でまた景気が悪くなってしまうんです。11年度のプライマリーバランス均衡化のスローガンは維持しつつ、11年度の目前に現実を踏まえて必要なら修正すればいい。麻生氏のように、今から財政再建を放り出して、景気対策を連呼するのは本末転倒ですよ。消費税の話も、景気を理由に逃げたりしてはいけない。国民も、逃げない真摯な姿勢に対して評価すべきです。
--何のために増税が必要なのかを、国民に明示する必要があると思いますが。
財政の無駄の排除はしっかりやるべき。無駄の削減で生じた財源は、国債の償還など国の借金の返済に充てるべきです。ただ、“埋蔵金”があるから増税は必要がないというのは、間違いですよ。高齢化で必要になる年金や医療、介護の支出は、国民みんなで負担しないといけない。ほかの多くの先進諸国と比べて、税負担も社会保険料の負担も少ないということを、国民は理解すべきです。
--ただ、年金を筆頭に、国民の政府への不信感は強いですね。
年金記録問題ではっきりしたように、制度の仕組みに安心感がないというのは致命的ですよ。スウェーデンは高福祉高負担だけれども、あなたが納めている額はいくらで、年金はいくらもらえる見通しですというオレンジレターをきちんと国民に届けている。日本のように将来いくら年金をもらえる見通しかもわからないというのでは、負担増は嫌だということになる。ただ、そうした問題が解決しないうちは負担増に応じられないというのでは、「百年、河清を待つ」ですよ。結局のところ、政府が国民にどれだけ誠意ある態度を示せるかにかかっています。
財政再建で参考になるのがカナダです。カナダは1990年代初頭には財政赤字大国でしたが、首相以下、内閣が必死になって増税の必要性を国民に訴えた。そのカナダは今では財政黒字ですよ。