バブルおじさんの跋扈こそが日本の大問題だ 思考停止が「飯、風呂、寝る」だけの人生を招く

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中原:学校教育で教えられていないものと言えば、政治や選挙の問題もそうなのですが、もう1つ思うのは、おカネのことです。

出口:おっしゃるとおりです!

中原:うちの子どもが今、10歳なのです。その子が、ちょっと前のことになりますが、ドキッとする質問を僕にしてきました。「パパ、いくらあれば東京で暮らしていけるの?」という質問です。たまたま学校で、自分が将来やりたい仕事などを書いたらしいんですね。そのときに、ふと疑問に思ったそうです。

僕は、自分の研究上、とくに「働くこと」に関しては息子にいろいろ言っているような気がします。「世の中には、いろんな仕事がある」「仕事によって、給料は変わる」ということを言っています。でも、肝心なことに、「いくらあれば、暮らしていけるか」は教えていなかった。これにはハッとしました。

出口:息子さん、立派ですね。大事なことですよね。

浜屋:あらためて尋ねられると、答えるのが意外と簡単ではない質問ですよね。結婚するのか、するなら夫婦共働きを前提とするのか、子どもを持つのか、社会保障制度って何、など実はいろいろな要素がからんできます。

中原:そうなんです。もともと「生きるため」に僕たちは「働く」わけですよね。そして「生きていく」ためには稼ぐ必要があります。しかし「いったいいくら稼げばよいのか」わからないのに、僕たちは「働くこと」を教えてしまいがちです。やっぱり、おカネのことも、しっかりと子どもと対話しなくてはならないのではないでしょうか。

思考停止が「飯、風呂、寝る」の人生を招く

出口:わたしは、教育の目的は2つしかないと思っています。1つは「人間は考える葦」なので、自分の頭で、自分の言葉で、自分の意見を言えるようになる。そのために、一生勉強し続ける、というのが根本だと思うのです。でも、それだけではなくて、社会で生きていくための武器、たとえば選挙や税金、おカネなど、直面せざるをえない事柄について生きた知識を教えるのが、教育のもう一つの目的だと思っていて。それが全くないですよね。

中原:そうなんですよね。ロールプレイングゲームでも、武器も防具もつけないまま、いきなり放り出されたら、あっけなく怪物やスライムに当たって死んでしまいますよ。そんな中で、選挙権が18歳になり、いろいろなことがどんどん前倒しになってきていて。生きるための知識を与えられることもなく、社会に送り出されているというのは、非常に問題だと思いますね。

浜屋:武器や防具という意味では、私は労働法についても、ぜひ教えたほうがいいと思っています。この本を書いてから、30代前半くらいまでのママたちとお話しする機会が増えました。その中で「夫の勤務先での働き方が明らかにおかしい、話を聞いているとパワハラだと思う」などと不満や不安を訴える方に複数出会いました。

そして、夫がブラック職場から逃げる術を持たずにいることが、家庭では妻をワンオペ育児の状況に追い込んでいます。お話を伺った方々には、「ぜひ逃げる応援をしましょう」というアドバイスをしました。ほんの基礎知識程度でいいので、自分の身を守ることに役立つ武器や知恵がちゃんとあるということを学生時代に知っておくことが大事だと思います。

出口:渡辺和子さんの『置かれた場所で咲きなさい』(幻冬舎)という本がベストセラーになりましたが、咲けない場所もあります。『置かれた場所で咲きなさい』の意味はせっかくご縁があって置かれたのだから、咲けるように頑張ってみようよね、ということですが、頑張っても頑張っても咲けなければ、「チェンジ」したほうがいいに決まっています。

気に入った恋人がいて一緒に住み始めたら、突然、DV(Domestic Violence)が始まった。なんてことになったら、我慢しますか? すぐに逃げたほうがいいですよね、「チェンジ」しますよね。

戦後の高度成長期の成功体験は今の時代には通じないと出口氏は話します(撮影:今井康一)

浜屋:それは間違いなく「チェンジ」です。一生1社だけで働くといった時代はもう終わっているのだから、もっと軽やかに「チェンジ」があることを前提にして、たくましく働き続けることができる自分になることを考える時代だと思います。

出口:そもそも一括採用、終身雇用、年功序列、定年というものは、すべて人口の増加と高度成長を前提にした「工場モデル」が作り出したものですから。ガラパゴス的事例な労使慣行であるということを理解しなくてはいけません。

中原:ガラパゴス的な檻やしがらみの中で、考えることをやめてしまうということが、いちばんのリスクですね。

出口:考えるのをやめたとたんに、「飯、風呂、寝る」で過ごすだけの人生になってしまいます。

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