「医療モール」は駅活性化の切り札となるか

中核駅から地方駅まで導入事例が増えてきた

第2に、地方行政や金融機関からの期待である。近年、人口の高齢化や減少に伴って、中心市街地が衰退し、財政難の問題に直面している地方都市が増えている。それにもかかわらず、住民から医療や介護の充実化を求める声は依然として多い。そのため、中心市街地に大病院を誘致し、まちの魅力を高める「まちなか集積医療」を展開する方法が提案されているが、多くの地方都市では財政基盤が弱く、税収が不足ぎみである。このような事情から、駅前に新しく病院を誘致したり、既存の自治体病院を移転したりすることが難しい。一方、駅前に医療モールを誘致するのであれば、病院よりも開設規制が弱く、建設コストも低いことから、金融機関や民間企業からの支援も得やすく実現可能性が高い。地方行政がこの取り組みを支援することで、民間投資や雇用が誘発される可能性もある。

第3に、住民側の医療に対する意識が変化していることである。昨今の医療技術の進歩や医療費の負担感の増加に伴って、患者の権利志向が高まっていることから、何らかの健康問題が生じたときには、経済的負担が少なく効率的に通院できる医療が好まれている。住民の多くは、緊急医療が必要な重篤な場合を除いて、副次的な利用目的で医療機関への受診を考えている。そのため、通勤・通学経路から離れた遠方の病院よりも、最寄り駅周辺に立地する医療モールに関心が集まりやすい。

そして最後に、現在、多くのクリニックで開業医の世代交代の時期を迎えていることである。クリニックの建物が老朽化し、機器設備の耐用年数が過ぎて後任に引き継ぐことが困難であるため、建て替えや移転が余儀なくされている。ただし、現在は従来型のクリニック兼住宅型で開業するよりも、職住分離型で開業するのが主流であるため、選択肢の1つとして医療モールが選ばれている。

このように、この駅ビジネスは鉄道事業者、地方行政、住民、開業医のいずれにも利点があり、ニーズが合致していることから、期待が高まっている。

改札内に設けられた千葉駅の医療モール

この駅ビジネスの主な展開事例を表に示しながら次の4つを紹介したい。

1つ目は、「駅ナカ医療モール」である。JR千葉駅に2017年4月にオープンした「ぺリエ千葉」の4階フロアがあげられる。改札口を出ることなく、クリニックに直接通院することができ、受診した後は同フロアで買い物を楽しむことができる。総合診療医が手掛けるクリニックと調剤薬局が併設されているほか、リラクセーション、理容室など11店舗を加えた駅ナカ空間で複合的なサービスを提供している。ターゲットは千葉駅を利用する乗降者が中心となるが、通勤・通学、買い物、旅行などを目的とした来訪者が時間を調整しながら効率的にサービスを利用することができる。忙しい現役世代にとって、駅ナカで医療サービスが利用できるメリットは大きい。

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