「医療モール」は駅活性化の切り札となるか 中核駅から地方駅まで導入事例が増えてきた

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他方、デメリットとして次の3つを指摘することができる。

1つは、開設前にさまざまな法律上の障害をクリアしなければならない点である。医療モールは、複数のクリニックが集合して玄関や総合案内のスペース、診療機器や調剤薬局などの経営資源を共同利用することで経営効率を高める仕組みであるが、それを実現するためには医療法、建築基準法、消防法の問題をクリアする必要がある。一般の商業施設よりも、設置基準等が厳格に定められ制限が多いため、メディカルフロアの工事費用が増加することがあり、一定の準備期間や手間がかかる。

2つ目は、交通系電子マネーによる支払い手段が未整備であることである。医療費の支払いにクレジットカードが利用できるところは徐々に増えているが、スイカ(Suica)やパスモ(PASMO) などの交通系電子マネーで決済できるところはほとんどない。駅との集積効果を生かすために、支払い手段の多様化と早期導入が望まれる。

3つ目は、駅の隣接地域を衰退させるおそれがある点である。駅と医療モールが集積することで、駅の利便性が格段に向上する一方で、駅から離れた場所に立地する商店街では来訪者が減少する可能性がある。この問題については、まちづくり3法や商店街再生の視点から別途議論する必要がある。

発展の可能性が高いのは高架下

医療モールを活用した駅ビジネスは、鉄道会社を中心に開業医、金融機関、地方行政などが相互に連携支援していくことで、今後発展していくことが予想される。ここで最も発展の可能性が高いと思われるのは、「高架下医療モール」である。未利用地を有効活用するので、鉄道事業者にとっては、資産価値の維持向上が期待できる。多くの地方都市では、保育園や介護施設の不足問題が深刻化しているので、低予算で提供することができれば地域社会に大きく貢献するだろう。たとえば、JR国立駅の高架下に保育園と高齢者福祉施設を集積した「COTONIOR(コトニア)国立」の事例は興味深い。ここではクリニックは併設されていないが、このような未利用地を有効活用する柔軟な視点が重要である。

「駅ビル医療モール」は今後も展開される可能性がある。地方都市では「まちなか集積医療」の実現に向けて、駅前や中心市街地への病院誘致を検討しているが、財政上の問題から難しい。しかし、医療モールであれば開設規制が弱く建設コストも低いことから、今後の発展が期待できる。

「駅ナカ医療モール」は、地方都市の中でも、乗降客数の増加が見込まれる大規模な中心駅に限定されるだろう。ただし、観光都市として観光産業の発展と移動人口の増加が期待できるのであれば展開されるかもしれない。

伊藤 敦 国立大学法人北見工業大学 工学部准教授

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いとう あつし / Atsushi Ito

博士(経済学)。自由が丘産能短期大学専任講師を経て現職。専門は医療経済学・医療経営学・社会保障論。編著書に『期待されるグループ診療』(編著・2012年、社会保険研究所)、『持続可能性のある日本のプライマリ・ケア提供体制』(単著・2017年、日本評論社)がある。論文多数。

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