働き方改革?国が口出しするのは不自然だ 経営者が自らやれることはいくらでもある

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経営者が「やる」と決めたら、いくらでもできるのです。私も社員の年収を最も近い関係の大企業の、それぞれの社員の同期より10%多く支給することを実施しました。このようなことは誰からも要請されたことはありませんし、強制されたことでもありません。賃金をどうするかということも、政府や国の問題ではなく、経営者が社員にどれだけの満足を与えるかの意識、自覚にあると思います。

いくらでも社員にやる気を持たせ、誇りを持たせ、満足して仕事に取り組んでもらえる制度は考えられる。それを、「法律の問題」「国の問題」などと言い訳がましく言い募る経営者がいるとすれば、言い訳をするのではなく、堂々と闘えばいい。ヤマト運輸の故・小倉昌男氏のように担当官庁と「喧嘩(けんか)」すればいいのです

さまざまな工夫をして、社員に満足してもらえる職場、環境づくりを経営者が心掛ける。社員が喜んで仕事に取り組む環境をつくることを、経営者は怠ってはいけません。社員あっての会社だからです。

経営者が「働きやすい環境づくり」に取り組めばいい

これからの経営者も時代を先取りして、どんどん社内の環境づくり、社員が満足する「働きやすい環境づくり」に取り組めばいいのではないかと思います。たとえば、よく言われるように、テレワーク。「在宅勤務」を積極的に取り入れる。BARIS(バリス)革命(Big-Data、AI、Robot、IoT、Sharing-Economyの頭文字)の時代が指呼の間でやってくることを考えれば、すでに取り組んでいる会社もありますが、先端的にテレワーク、在宅勤務に切り替えていく。

また、転職をしやすいように、受け入れやすいように「再入社制度」を実施する。退職して5年以内であれば、また戻ってきたいという人材を無条件で受け入れる。その社員は5年間、「板場の修業」に出していたと思えばいい。そのあいだに、その社員はさまざまな人脈を築いているかもしれません。自社にない新しいスキルを身に付け、あるいは自社にない視点を持つようになっているかもしれません。喜んで転職させ、喜んで受け入れる。そこに、今の自社にはない異質の文化が入って、非連続的な、異次元の発展につながるかもしれません。なにより、社員も喜ぶでしょう。大いにやる気を起こすでしょう。

保育園不足も課題になっていますから、職場に「保育室」を設けるという知恵もいいかもしれません。これは、すでに実施している会社があります。男性社員、女性社員を問わず、その子どもたちを預かる。そうすれば結婚しても、安心して子どもをつくり、また、出社しても、落ち着いて仕事に取り組めるわけです。

加えて、保育士資格を持った社員を採用し、その保育室で3年間勤務してもらう。そのあと通常勤務に戻る。あるいは、外部の保育園に出向させる。会社名を背中に書いた上着でも着て保育活動をすれば、責任感も一層高くなるでしょう。その3年間が空白になる、本人にとってマイナスになるということはありません。スポーツ選手を自社の宣伝で入社させ、7年間も実務から離れた社員が、のちに重役になった例はいくらでもあります。

こちらはルールの問題もありますので簡単ではありませんが、社外役員も廃止するべきではないでしょうか。おおよそ日本において、社外役員ほど役に立たないものはありません。たまにしかその会社に接しませんし、社員と同じ空気を吸ってもいないのに、的確なアドバイスができるはずもありません。アドバイスを得たいなら、そのときに聞きたいテーマにふさわしい他社の役員に、そのつど来てもらって話を聞けばいいことで、私の経験からは、そのようなポストが必要であるとは到底考えられません。それならば、社員を役員にしたほうがいいと私は思います。

まだまだ、いろいろな「よき環境づくり」のアイデアはありますが、要は、政府や国に頼ることなく経営者の意識次第で、いくらでも、新しい働き方、社員の働く環境づくりはできるということをお伝えしたいと思います。

江口 克彦 一般財団法人東アジア情勢研究会理事長、台北駐日経済文化代表処顧問

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えぐち かつひこ / Katsuhiko Eguchi

1940年名古屋市生まれ。愛知県立瑞陵高校、慶應義塾大学法学部政治学科卒。政治学士、経済博士(中央大学)。参議院議員、PHP総合研究所社長、松下電器産業株式会社理事、内閣官房道州制ビジョン懇談会座長など歴任。著書多数。故・松下幸之助氏の直弟子とも側近とも言われている。23年間、ほとんど毎日、毎晩、松下氏と語り合い、直接、指導を受けた松下幸之助思想の伝承者であり、継承者。松下氏の言葉を伝えるだけでなく、その心を伝える講演、著作は定評がある。現在も講演に執筆に精力的に活動。

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