「モデル化に際してわれわれがそうした心理的なストーリーを取り除くのは、それがつまらないものだからではない。あまりにも興味深いがために、最も関心を払うべき市場原理から目をそらすことになるからだ」。こう結論づけたミラー氏の文章は、同氏の信奉者によって広く引用されている。
米マサチューセッツ工科大学のスティーブン・ロス教授は同じく金融論の権威で、3月に亡くなるまでノーベル賞の有力候補だったが、同様の主張を繰り広げていた。
セルフコントロールの経済理論とは
ミラー、ロス両氏の金融理論に対する貢献はすばらしいものだ。だが、両氏の研究結果が経済や金融の力学を理論づける唯一のものではない。それを証明するのが行動経済学であり、その主要な貢献者となってきたのがセイラー氏だ。
一例を挙げよう。セイラー氏は1981年に、米サンタクララ大学のハーシュ・シェフリン氏と共同で「セルフコントロールの経済理論」を発展させた。衝動を制御できない人間の観点から経済現象を理論化するものだ。歩道に10ドル札が落ちていれば、動機づけられなくても人はそれを拾うだろう。そこでは自制は問題とはならない。だが、そのおカネを消費する衝動にあらがうのは難しい。結果、多くの人々が老後に備えて、まるで十分な蓄えができずにいるのである。
人々の貯蓄行動を改善するのは、取るに足らない小さな問題ではない。ある程度までは生きるか死ぬかの問題であり、さらには人生における満足度をも決定する。
こうしたリアルで重要な問題に経済学研究の焦点を当てる方法を示したのが、セイラー氏だ。同氏は若き研究者のために、今後長きにわたって続いていく科学的革命の道標を打ち立てたのである。
記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら
印刷ページの表示はログインが必要です。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら
無料会員登録はこちら
ログインはこちら