「意識高い系」社員につけるクスリはない スクールカーストで下層にいた者の劣等感だ

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私は「承認されたい」「評価されたい」という欲望を悪いとは言っていない。それは自然な欲望であり、向上心や創意工夫の源でもある。とはいえ、どの分野でも成功した人は、他者にアピールなどせず地道な努力をしている。意識高い系には、努力に伴う、汗臭さや泥臭さがまったく感じられない。

汗にまみれた汚い自分は、スクールカースト第二階級(場合によっては第三階級)時代の地味で冴えない自分を想起させるため、プライドが傷つく。そこで「意識高い系」は地道な努力をしようとしない。つねに他者から承認されやすい、多幸的で抽象的な大義を掲げることにのみ腐心する。

「意識高い系」は企業で使えない

意識高い系は就職の志望動機に、”社会貢献”を掲げることが多い。資本主義社会において、企業は利益を追求する存在なのに、社会貢献を第一に言うのはおかしい。営利企業に入社し非営利を追求するのは矛盾している。しかし、しゃにむにカネを稼ぐのは下品なこと、というイメージを持っており、社会貢献という大義を掲げるのだ。

起業する場合であっても、単に”起業”と言わずに、”社会起業”という。起業だけでは金儲けという印象を与えるので恐れるのだろう。社会貢献という大義を掲げていれば、「カネを稼ぎたい」「世間から注目されたい」というグロテスクな欲望を隠蔽することができ、時として他者からの喝采を浴びる可能性もある。「意識高い系」に社会企業や社会貢献が蔓延するのはこのためだ。

実際には承認を求めているにすぎないので、その内容はマスコミ受けすれば何でもよい。「俺は(私は)社会貢献企業のCEOをやっている」と自慢し、「すごい」とチヤホヤされたいというのが、根本的な目的であり真の欲求である。繰り返すように、「リア充」はすでに青春時代に承認欲が満たされているので、このようなアピールの必要がない。

彼らを見ていると、とうてい、資本主義社会に生きる人間とは思えない。かって松下幸之助は”産業報国”といって、利益を稼ぐことが国家への貢献につながると説いた。カネを稼ぐことこそが社会貢献になるはずだが、彼らの目的は報国でも社会貢献でもなく他者からの承認=チヤホヤなので、こういった思考に陥るのである。

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「意識高い系」の学生を採用するには危険だと思う。長続きしないので採用コストがムダになってしまう。彼らは大義を語り、入社試験を通過しても、その後の業務に耐えられない。

会社は軍隊のようなもので、初年兵は戦力にならないのだから、雑用と訓練しかないと思う。「意識高い系」は能力が高くないのに、プライドばかり高いので、理想と下働きのギャップを受け入れられない。

新入社員はひたすら訓練を受け、仕事に慣れるまでは汗と涙にまみれる不格好な姿を、他者にさらさなくてはならない。だが、企業の一番下の序列で下働きをするのは、冴えない存在だった高校時代を思い起こすのでできない。企業内での下働きは、スクールカースト時代の被支配階級を想起させ、彼らのプライドが耐えられないのだ。

彼らはそのプライドの高さゆえ、すぐに退職するだろう。が、仮に転職しても、当然のことだが、企業内序列は変わらない。そうするとすぐに「俺がいる場所はここではない」「周囲が悪いから、自分の能力が発揮できない、認められない」などと責任を転嫁して、短期退職を繰り返し、果ては起業セミナーなどに行きつくだろう。それでも結論は同じだ。実力も実績もなく、ひたすら他者からの承認に飢えている「意識高い系」社員につける薬は、なかなか見つからない。

古谷 経衡 文筆家

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ふるや つねひら / Tsunehira Furuya

1982年11月10日北海道札幌市生まれ。立命館大学文学部史学科卒(日本史専攻)。インターネットとネット保守、若者論、社会、政治、サブカルチャーなど幅広いテーマで執筆評論活動を行う一方、地上波、AbemaTV、ラジオ番組でコメンテーターも担当。大の猫好き。近著は 『「意識高い系」の研究』(文藝春秋 文春新書)、『アメリカに喧嘩を売る国~フィリピン大統領ロドリゴ・ドゥテルテの政治手腕~』(KKベストセラーズ)。

 

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