年6トン!鹿児島にある「奇跡の金山」の秘密 住友金属鉱山の収益を支える菱刈鉱山に潜入

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1トン当たり約1キロという超高品位の鉱石は将来のためのストック(記者撮影)

高品位を保ち、毎年6トンもの金をコンスタントに掘り出すためには、あるカラクリがある。菱刈鉱山では特に表層に近い部分に高品位の鉱脈がある。一方、深くなればなるほど、品位は落ちるという。

そこで過去に掘り当てた超高品位の鉱脈の一部を現在もそのままに残している。将来、掘り進んでいけば、品位が下がっていくが、そのときは高品位の部分を合わせて掘り出す。平均化して一定の品位を保ちながら、年間6トンという量を確保していく。

「長期的な安定収益源」

菱刈鉱山は住友金属鉱山にとって、「長期的な安定収益源」(同社)だ。当然、そのときの金相場に左右される面はあるが、毎年6トンと産出量が一定しているため、損益のブレが比較的少ない。採掘された金の多くは電子機器などの部材向けに出荷される。海外では宝飾品向けが多いが、住友金属鉱山では産業用途が圧倒的割合を占める。

さらに同鉱山の強みとして、「出所」が明確なことがある。一部地域では鉱物資源が武装勢力の資金源となっており、欧米などではそうした鉱物(=コンフリクトメタル)でないことの証明がなければ使用できないルールがある。もちろん、菱刈産なら心配はない。東予工場では「コンフリクトフリー」の認証を受けて出荷している。また、品位が高いということは、それだけ製錬コストを安くできるということであり、採算性も高い。

住友金属鉱山にとって、菱刈鉱山は鉱山技術の継承という重要な役割もある。協力会社も含め、約280人が働いている。その中には今後、海外の鉱山で活躍する人材も育っている。

最近では、カナダのコテ金開発プロジェクトの権益取得にも乗り出しているが、現在の中期経営計画では、「金をターゲットにカナダ、オーストラリア、南米を中心に探鉱活動を展開、権益獲得を進める」方針だ。現在は菱刈鉱山とアラスカのポゴ金鉱山の2つで年間生産約15トンだが、長期的には30トンを目指す。

2016年の世界の金生産量は約3100トン。中国、オーストラリア、ロシア、米国が産出上位国だが、日本の年間6トンは菱刈鉱山から生産されている。今後どこで新たな金鉱脈が見つかるのか。日本の「奇跡の金鉱山」は、技術者とともに少なくともあと30年は生き続ける。

木村 秀哉 東洋経済 記者

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きむら ひでや / Hideya Kimura

『週刊東洋経済』副編集長、『山一証券破綻臨時増刊号』編集長、『月刊金融ビジネス』編集長、『業界地図』編集長、『生保・損保特集号』編集長。『週刊東洋経済』編集委員などを経て、現在、企業情報部編集委員

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