株価が下落する「危険なサイン」が出てきた これから日本株を買っても儲かるのか?

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余談だが、元々9月が期限であった、暫定予算と債務上限問題が3カ月ほど延長されたのは、前述のように超党派合意によるものであった。その背景は、8月に南部を襲ったハリケーン「ハービー」の被害が大きな「国難」となり、被災地の救済・支援が喫緊の課題であって、暫定予算や債務上限でもめている場合ではない、という認識が共和・民主両党の間に広がって、期限延長が成立したわけだ。とすれば、次回12月上旬の期限を前に、トランプ大統領としては、またハリケーンでも襲来して欲しいところだろう。しかし季節柄ハリケーンは来ないので、トランプ大統領が「国難」を作り出す可能性があり、警戒すべきだと言える。

繰り返すが、筆者は米国の経済政策に対する不安や、財政審議についての懸念は、おそらく年末までのどこかで大きく生じ、米国株価や米ドルを下振れさせ、結果として国内株価も押し下げると考えているわけだが、いったいそれが年末までのいつに生じるかは、よくわからない。今週かもしれないし、来週かもしれないし、1カ月後かもしれないし、2カ月後かもしれない。

「2018年強気相場」前の「ひと休み」を予想

「米国発の市場波乱」という「鬼」が来るのが、まだ少し先であれば、その間は、特に日本国内に大きな株価下落材料がないために、さらに日経平均株価が上値を伸ばす可能性はある。ただしそれでも、2万2000円を年内に超える可能性は限定的だと見込む。

というのは、足元の相場付きに「危うさ」を覚えるからだ。たとえば、NT倍率(日経平均株価÷TOPIX=東証株価指数)が、最近は大きく上振れしている。つまり、日経平均株価が主導する株価上昇というわけだが、海外短期筋が日経平均先物を買い戻していることによると推察している。

当初、海外短期筋が先物売りを増やしたのは、一時の「モリカケ」問題による内閣支持率の低下と、北朝鮮の挑発的な行動によるものだったろう。しかし総選挙情勢では、現与党の過半数確保の可能性が高まっており、北朝鮮も今のところ静かだ。日経平均の2万1000円超えが、こうした短期的な買い戻しや、心理的な大台を日経平均に超えさせることで、弱気筋の買い戻しを狙ったことによるのであれば、それほど長く買いが続くとは見込みにくい。

また、いわゆる「ハーディング(群れ)現象」が起こっていることも、否定はできない。先週末のある「株式無料セミナー」には、「これから株を買いたい」という個人投資家が押し寄せ、配布資料が足りなくなったり、最終的に入場を制限したりする事態となり、混乱が生じるほどだったという話も聞いている。たいがい、「株価が高値を更新したと聞いたから、儲かるだろうから買いに行こう」という人が増えるのは、危険サインだ。

長期的な観点では、内外経済や企業収益は、着実な回復軌道をたどっている。述べてきたように、米国株価や米ドルは年内に大きく下振れ(為替は円高に)すると予想しているが、それは現在の米国株価が割高な水準にあり、調整が必要だと考えるためで、米国の経済や企業収益そのものが悪化するわけではない。

年内に米国株価が十分(10%以上)下落し、予想PERなどでみた割高さが払しょくされれば、2018年以降は、再度緩やかな株価上昇基調に復帰すると考えている。その前に、年内日米とも株価がいったん下振れする(米ドル円相場も、いったん米ドル安円高に振れる)と、引き続き見込んでいるわけだ。そうした流れの中で、今週の日経平均株価については、2万0800~2万1500円を予想する。

馬渕 治好 ブーケ・ド・フルーレット代表、米国CFA協会認定証券アナリスト

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まぶち はるよし / Haruyoshi Mabuchi

1981年東京大学理学部数学科卒、1988年米国マサチューセッツ工科大学経営科学大学院(MIT Sloan School of Management)修士課程修了。(旧)日興証券グループで、主に調査部門を歴任。2004年8月~2008年12月は、日興コーディアル証券国際市場分析部長を務めた。2009年1月に独立、現在ブーケ・ド・フルーレット代表。内外諸国の経済・政治・投資家動向を踏まえ、株式、債券、為替、主要な商品市場の分析を行う。データや裏付け取材に基づく分析内容を、投資初心者にもわかりやすく解説することで定評がある。各地での講演や、マスコミ出演、新聞・雑誌等への寄稿も多い。著作に『投資の鉄人』(共著、日本経済新聞出版社)や『株への投資力を鍛える』(東洋経済新報社)『ゼロからわかる 時事問題とマーケットの深い関係』(金融財政事情研究会)、『勝率9割の投資セオリーは存在するか』(東洋経済新報社)などがある。有料メールマガジン 馬渕治好の週刊「世界経済・市場花だより」なども刊行中。

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