自民党勝利でも財政健全化は遠のくしかない 安倍政権のバラマキが続くこれだけの根拠

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もう1つは「消費税の軽減税率」だ。与党は、消費税率を2019年10月に予定どおり10%に引き上げるのに合わせて、軽減税率の導入を計画している。これによって約1兆円の税収減となり、そのうち0.4兆円は新たな施策(総合合算制度)を取りやめることにしたため、財政収支を悪化させないように手当てしたが、残る0.6兆円はまだ手当てされていない。

この0.6兆円に見合う歳出削減が行われなければ、赤字国債を増発しなければならなくなる。別の言い方をすれば、軽減税率導入で失われる税収0.6兆円に、何も追加の対応をしなければ、0.6兆円分の歳出を減らさずに温存したも同然、という結果となる。社会保障費の自然増を年間0.5兆円に抑えようとしている最中であり、0.6兆円の規模がいかに大きいかがわかるだろう。

インボイス(税額票)を導入すれば消費税を厳格に徴収できるから、何の手当てもしなくとも0.6兆円を穴埋めできると見るのは、間違いだ。消費税にそれほどの徴収漏れがあるものではない。

与党圧勝で総理の顔に泥は塗れない

さらには、「生産性革命」や「人づくり革命」に向けた政策の総動員も、歳出増圧力となりかねない。安倍首相は選挙前の9月8日の未来投資会議(議長:安倍首相)で、生産性向上に向けた設備や人材への大胆な投資を促すため、税制、予算、規制改革など、あらゆる政策を総動員すべく、施策の具体化を指示した。これは消費増税の使途変更とは無関係である。ということは、消費税の使途変更とは独立して、別途、歳出増の要因になる可能性がある。

結局、与党が圧勝すればするほど、安倍首相の発言の重みは増す。選挙に勝った総理・総裁の顔に泥を塗るわけにはいかないから、必ずしも専門的に検討されたわけではないものの、首相が言及した政策は、実施しないのも難しい。政権中枢が歳出増の圧力を抑えないかぎり、悪乗りした歳出増要求が与党内で横行する。

消費増税をしないより、予定どおり増税したほうが、使途変更があったとしても財政収支は改善する。だが、歳出増圧力が、国民から見て無駄遣いとなる予算を増やしてしまっては、元も子もない。使途変更という形で開けてしまった歳出増という「パンドラの箱」をどう収拾するのか。与党が安定多数をとっても、過半数割れしても、選挙戦で争点にすらなっていないバラマキ財政が選挙後に展開される可能性は高い。

土居 丈朗 慶應義塾大学 経済学部教授

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どい・たけろう / Takero Doi

1970年生。大阪大学卒業、東京大学大学院博士課程修了。博士(経済学)。東京大学社会科学研究所助手、慶應義塾大学助教授等を経て、2009年4月から現職。行政改革推進会議議員、税制調査会委員、財政制度等審議会委員、国税審議会委員、東京都税制調査会委員等を務める。主著に『地方債改革の経済学』(日本経済新聞出版社。日経・経済図書文化賞、サントリー学芸賞受賞)、『入門財政学』(日本評論社)、『入門公共経済学(第2版)』(日本評論社)等。

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