安倍晋三首相は消費増税とその使途変更を解散の大義と位置づけた。それとともに自民党の政権公約には、「財政健全化」の旗は明確に掲げ、基礎的財政収支を黒字化するとの目標は堅持する、と明記している。
こうみると、野党は財政健全化に関心が薄く、与党は財政健全化をしっかり意識しているようにも見える。もし、今般の衆議院総選挙で与党が3分の2の議席(全465議席中310議席)に迫る勢いで議席を獲得すれば、安倍政権は継続、安定した政権基盤を背景に、政権公約に掲げた財政健全化に勤しむことになる。はたしてそうだろうか。
むしろ与党が圧勝すればするほど、選挙で勝った勢いに任せて、当選議員が選挙中に訴えた歳出増の要望を実現するよう、財政当局に迫ってくる。予算編成に責任を持つ政権中枢が、与党内の歳出増圧力を抑えないかぎり、議員が要求を自発的に我慢することはなく、もしそれを飲めば、予算はますます膨張することになる。財政健全化の旗は、野党との差を強調する理由には使えたとしても、1票でも多く集めることに貢献したと理解する与党議員が少ないなら、なおさらだ。
与党がかろうじて過半数を上回る議席しか獲得できず、新たに連立内閣を組織するため、野党だったいくつかの政党に与党入りを打診するような情勢ならば、洋の東西を問わず、何かと予算がバーター取引の材料に使われ歳出が膨張する、ということはよくある。従来の与党で認められなかった支出でも、新たに与党に加わる政党が強く主張していたものなら、新連立政権でその支出には予算がつき、なし崩し的に支出が増えていく。政権基盤が不安定になると、政治的に妥協するため、歳出が膨らむ。
どっちにしろ歳出増になる可能性が高い
ひるがえって、この総選挙後はどうか。自民党と公明党でかろうじて過半数を上回る議席しか獲得できなければ、政権基盤の不安定化が原因となる歳出の拡大はありえるだろう。他方、自公で3分の2の議席に迫る結果であったとしても、今回の場合、歳出の膨張が起こりうる。財政健全化の旗を明確に掲げる政権公約で選挙に臨んだ自民党が、歳出増に傾く可能性があるとみる。そうみるのは、選挙前にすでに布石があったからだ。
1つは「消費増税の使途変更」である。消費税の増収分のうち、後代への負担のつけ回しの軽減(借金返済)に充てる予定だったものを、2兆円ほど教育無償化や介護人材確保などに充てる。選挙前に安倍首相は大まかにそう示した。教育無償化では公明党も独自に提案をしており、それまで認めると、安倍首相の示した金額で納まらない可能性がある。
ましてや日本維新の会が主張するように、大阪府で独自に実施している授業料負担軽減を全国規模で国が実施しようとすると、さらに支出は膨らむ。授業料負担軽減は、大阪府以外でも地方自治体が独自に実施しているが、全国規模で国が実施するとなると、地方自治体は独自の支出をやめることができて、財政収支は改善するが、国は新たに歳出拡大となるから、財源が見つからなければ国の財政収支赤字は拡大する。
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