「米国住宅公社」と世界経済 “魔法”がもたらした逆転のリカップリング

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住宅を購入する際、国民の多くが“お世話”になった住宅金融公庫が独立行政法人「住宅金融支援機構」に衣替えして1年半。数多くの「独法」の中で、ここほどダイナミックに変身した組織はあるまい。

住宅金融公庫は長期住宅資金を直接国民に貸し付けていた。融資残高はピーク時75.9兆円。その直接融資をスッパリやめたのである。

代わりに、民間金融機関から住宅ローン債権を買い取り、それをMBS(住宅債権担保証券)という証券化商品に仕立て上げ、機関投資家などに販売する証券化業務に全面転換した。郵貯の「出口」の一方を封印する、小泉郵政改革の目玉の一つでもあった。

住宅金融支援機構は発足時、「5年以内の黒字化、10年以内の累損一掃」を掲げた。だが、初代の島田精一理事長はもっと大きい夢を抱いていた。「MBSを大きく育て、国債市場に次ぐ証券市場を作りたい」。その壮大な夢が怪しくなった。自らの変身のモデルとし、「先生」と頼んできた米国の「住宅公社」、ファニーメイとフレディマックが大揺れに揺れているからだ。

米国債を上回るMBS

変われば変わるもの。ちょっと前まで、ファニーメイとフレディマックは、米国経済の“救世主”だった。

1999年までファニーのMBSの発行残高は1兆ドル(110兆円)に届かなかった。それが2005年には1.9兆ドルに膨れ上がった。MBSの発行は81年から。20年近い時間をかけて積み上げてきた残高をたった5年で倍にしたのだ。

この時点での米国債の発行残高は492兆円。対して、ファニー、フレディを筆頭とするMBSのトータルの発行残高は630兆円。MBSは米国債を凌駕し、証券市場の“王座”に就いている。

周知のように、00年のITバブル崩壊、01年の「9・11」で米国経済は奈落の底へ真っ逆さま、の寸前にあった。それを反転させたのが、ファニー、フレディのMBSに支えられた住宅投資(そして住宅価格上昇を背景にした消費拡大)だった。

カッコ付きの公社と書いたが、ニューヨーク市場に上場する両社には(今のところ)政府の資本は1ドルも入っていない。にもかかわらず、「GSE」(政府がスポンサーになっている企業)と呼ばれるのは、30年代の大恐慌の最中、「国家住宅法」に基づいて設立され、68年に民営化された後も、大統領が18名の役員のうち5名の任命権を持つこと(現在は空席)、財務省が22.5億ドルの緊急融資枠を設けていることなどによる。ヌエのようなこの立ち位置が絶妙の効果を発揮した。

政府による暗黙の保証がある、と市場は受け止めていた。MBSの金利は米国債よりわずかに高いだけ。通常の銀行の自己資本比率規制も課せられていない。しかも、政府とは“切れて"いるのだから、MBSの残高がどれだけ膨れ上がっても、米国国債の金利=長期金利には影響を与えない。かくて、MBSは青天井の膨張を続け、しかも長期金利は低いまま、という魔法のような世界が現出したのである。

だが、大成功は大失敗のもと、という典型だろう。サブプライム問題の表面化で住宅価格が下落すると、本来、プライムしか扱っていないGSEもたちどころにおかしくなる。何しろ、両社は全米住宅ローンの半分近く(証券化や保証)に関与している。3月末の延滞率は1.22%。6月末までの1年間で両社の赤字は140億ドル(1兆5400億円)に達した。しかも、住宅ローン債権・保証額に対する自己資本比率はたったの1.6%にすぎない(3月末)。

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