「米国住宅公社」と世界経済 “魔法”がもたらした逆転のリカップリング

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サブプライムはローン開始2年で金利軽減期間が終わり、以降、金利がハネ上がるが、プライムは開始5年後から金利が切り上がる。大量の切り替えが始まるのは09年から。ゴールマン・サックスのアナリストは「ファニーの損失は320億ドル、フレディの損失は210億ドルに拡大する」と見る。推測が正しければ、両社は大幅な債務超過に転落する。 

ヒーローからゼロに

両社はMBSの発行者であるだけではない。投資家でもある。古い数字で恐縮だが、91年時点ではMBS発行総額のうち自ら保持するのは2%にすぎなかったが(残りは売却)、01年にその比率は33%に高まった。両社が崩壊すれば、住宅市場のみならず、米国のMBS市場、ひいては米国の証券市場そのものが危殆に瀕することになりかねない。

「ファニーもフレディも重要すぎて潰せない」。大合唱が米国議会を覆い尽くし、「両社に対する緊急融資枠を拡大し、必要なら財務省が出資する」というポールソン長官の提案がすんなり議会を通過した。世界中のMBSの投資家はほっと一息だろう。だが、安心は、次の大いなる不安を生む。では、ファニーとフレディを引き受けたら、米国政府はいったい、大丈夫なのか……。

両社のMBSを抱え込めば、米国の政府債務は2倍になる。全MBSに責任を持つことになれば、政府債務は3倍に膨れ上がる。MBS市場は“救われ”ても、米国債市場とドルはどうなってしまうのか。

71年、米国はドル・金の交換を停止した。その2年後、第1次石油危機が起こった。マネーがドル安を“予感"すれば、ドルからの大逃避が始まる。

現下、狂騰した原油市況はたまさか反落しているが、GSEの政府救済が現実のものとなれば、世界のマネーは再びドルから離れ、商品市況に向かうだろう。

『ビジネスウィーク』電子版(7月1日)は、ムンバイのアナリストの言葉を引き、「インドはたった6カ月でヒーローからゼロになった」と書いた。インドは石油の7割を輸入に頼っている。しかも、軽油や肥料は大幅な価格補助政策をとっており、当然ながら、財政赤字は急悪化(対GDP比率は6%から11%に)。にもかかわらず(というか、それゆえに)人口の6割が従事する農業の生産性は極めて低劣。インフレ率は12%を超え、インドの「格下げ」が現実味を帯びている。

「デカップリング」論は幻想だった。サブプライム問題がGSE危機に転化し、証券市場を揺さぶり、ドル不安が資源インフレの種をまく。ファニーとフレディという二人の魔法使いが、米国と世界経済をリカップリングしようとしている。

FRBのグリーンスパン前議長は「百年に一度あるかないかの危機」と言う。前議長がGSEに警戒心を持ったのは事実だが、結局は、そのヌエ性を最大限“活用”した。

幸か不幸か、魔法使いの日本の弟子=住宅金融支援機構のローン債権買い取り額は思うようには伸びていない。弟子が“正しい”成長を目指すのなら、今のうちに、ヌエ性をぬぐい去っておく必要があるかもしれない。

梅沢 正邦 経済ジャーナリスト

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うめざわ まさくに / Masakuni Umezawa

1949年生まれ。1971年東京大学経済学部卒業。東洋経済新報社に入社し、編集局記者として流通業、プラント・造船・航空機、通信・エレクトロニクス、商社などを担当。『金融ビジネス』編集長、『週刊東洋経済』副編集長を経て、2001年論説委員長。2009年退社し現在に至る。著書に『カリスマたちは上機嫌――日本を変える13人の起業家』(東洋経済新報社、2001年)、『失敗するから人生だ。』(東洋経済新報社、2013年)。

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