一方、外食業界にありがちな風土を背景とした店長側の心持ちにも長時間労働の原因があります。
飲食店経営者には魅力的なキャラクターを持った人も多く、そのカリスマ性に惹かれて入社して、晴れて店長になったという外食企業の社員も少なくありません。Aさんも無理を言われながらも自社の社長をリスペクトしていて、なんとか期待に応えようという姿勢です。創業期には寝る時間を惜しんで店舗運営に粉骨砕身してきた経験を持つ経営者が、自分の過酷な体験を武勇伝とするような力技のマネジメントが成立しがちな土壌なのです。
こうした男気的なメンタリティは、当然ながら働き方にも多大に影響します。シフトが埋まらないことで頭を抱える店長が多いかと思いきや、「しょーがないな、じゃオレがその時間入るか!」と深刻さの欠片も見えない店長が意外に多いのです。
某大手居酒屋チェーンで人事部門責任者を務める元店長のBさんは「代打オレ!って感覚なんですよね」と、笑いながら答えてくれました。プレイングマネジャーとしてチームを引っ張る自分が、シフトが埋まらない時に真打ち登場とばかりに頑張る。プロ野球の選手兼監督がバッターボックスに向かう姿をイメージすると、その気持ちがちょっとわかるような気もします。
一国一城の主と言われることの多い外食産業の店長は、「やっぱオレがいないとこの店はダメなんだよな」というのが、大きなモチベーションになっているのかもしれません。
残業代全額支給が足枷に
Bさんは、こんなことも語ってくれました。
「ウチはブラック報道で叩かれてから、人事制度を大きく見直しました。一定の手当ではなくて残業代を全額支給するように変えたんです。昨今の働き方改革ブームで、ウチも時短を打ち出して労働環境の改善を図りたいんですが、実は残業代全額支給が足枷になっちゃって。現場にはまったく刺さらないんです」
いくら長時間労働であろうが、その分収入としてのリターンがあるなら、そちらがよいという店長がほとんどとのことでした。ただでさえ「代打オレ!」であったり「連戦連投!」であったりの働き方に男気を感じる業界。しかも比較的若い店長が多い居酒屋であれば、健康障害に対するリアリティもあまり感じることはないのでしょう。それよりは、ガッツリ働いてガッツリ稼ぎたいという心理が働くのも理解できなくはありません。
ホワイト化のために打った施策が、逆に働き方改革を阻む店長心理を醸成してしまったのは、なんとも皮肉な話です。
もっと働きたいアルバイトが保護されすぎてシフトに入れない。「定額働かせホーダイ」で働く店長は割に合わない過重労働負荷が高まる。生活残業が定着しきった店長は自分の健康に留意する意識も低く、働き方改革なんて望まない。短絡的な働き方改革に、むしろ現場は困惑しているようです。
こういった外食産業の事例が、旧来の日本的雇用慣行から脱却することの難しさ、すなわち働き方改革が一筋縄では進まないことを、改めて浮き彫りにしています。
記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら
印刷ページの表示はログインが必要です。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら
無料会員登録はこちら
ログインはこちら