「歩行支援ロボット」の最新技術が凄すぎる 「寝たきり」となった人への光明

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口腔ケアを担当する方の手を借り、筆談で意思を伝える向井文孝さん。向井さんのわずかな手の動きを感じ取って文字にしていくのには、特別な技能は必要ないものの、できる人とできない人があるという(筆者撮影)

現在も治験に通っている方にお話を伺うことができた。向井文孝さん(60歳)は、2009年、事故が原因で脳を損傷し、一時は植物状態と判断された。しかし妻の由子さんがあきらめることなくさまざまな治療を探し、2012年に意識が覚醒。現在は、右手がわずかに動くようになり、他者の手を借りた筆談によって意思を表現できるほどに機能を回復してきている。

向井さんは2015年の1月より、月1~2回のペースでコンスタントに治験に訪れている。向井さんによると、初めて使ったときは「つらかった。首が痛くて、胸も痛く、苦しかった。頭に酸素が行かず、気分も悪くなった」(向井文孝さん)という。アクティブ歩行器では、胸の部分をベルトで本体に固定するため、胸が押さえつけられた格好になる。車いす生活の長い向井さんは立ち上がるとどうしても前傾してしまうため、ベルトに体重がかかりよけいに苦しかったのだろう。

“自分が歩いている”という事実

しかし、その印象は徐々に変化するようになる。

「いつからか、自分の視線が懐かしい位置にあることがわかって、やっと立っていると実感しました。自分で動いているのではなく、動かされる感じだけど、久しぶりに顔で、体で風を切れました」(向井さん)

立ち上がったときの視線の高さ、風を顔に受けて実感する“自分が歩いている”という事実。そのとき、向井さんは、目の前で世界が変わるような感動を覚えたのではないだろうか。

また、最初は無理矢理引っ張られているような感じがしていたが、現在は「機械と一緒に進む感じ」で歩行訓練ができているという。

「もっともっとよくなるように頑張る。以前のように、仲間とファゴットを演奏するのが夢。そしていつか、一人で歩きたい」(向井さん)

由子さんは2年の間に生じた変化について「背中や腰、太ももなどに筋肉がつき、持久力も上がった」と語る。また訓練の初期と最近の動画記録を比べると、姿勢がまっすぐになっているのが素人目にも見てとれる。

もっとも、歩行訓練と平行してリハビリを行ったことも大きかった。作業療法士のもとで、自宅の柱を利用して立位を維持するトレーニングを行ったことで、首がまっすぐに立つようになってきたそうだ。そのほか向井さんは、由子さんの激励のもと、トランポリンを使った音楽運動療法を始め、各種のリハビリに日々励んでいる。それらが相乗的に効果をもたらし、回復を助けているといえるだろう。

「自分のようにリハビリに行ける人は恵まれている。そうでない人も自宅でリハビリが受けられるようになってほしい」とし、そのために「もっと簡単に装着でき、誰でも使えるよう改良してほしい」(向井さん)という。

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