キリンビール「上司の説教」が大炎上した理由

ダメ上司の10のNGな行動とは?

こうやって文字にしてしまうと、陰湿ないじめのように聞こえるが、実際の雰囲気はそこまで張り詰めた感じではない。その涙も、熱い励ましに、勇気づけられた、もしくは気づきを得たときの涙、にも見える。最後はみんな笑いながら、肩を組み、居酒屋を出ていくシーンが映し出されている。

実際、こういう手荒い「激励」は体育会系の上下関係ではよく見掛けるし、いまだにこんな感じで部下に話しかけている社長や幹部の話はよく聞く。きっと10年前なら、日常的な風景として問題にもならなかっただろう。しかし、ネットでは、「一番搾りだろ、部下を絞ってどうすんだよ」「パワハラ」「ビール会社がビールをまずくする」との声が集まった。

キリンビールの思惑とは?

そもそも、こうしたテレビのドキュメンタリーのストーリーは、パターン化しており、このエピソードも、シチュエーション(課題設定)⇒問題発生、挫折⇒乗り越え、問題解決というストーリーの黄金型を踏襲している。番組の制作者にとっては主人公の「涙」はまさにその挫折を象徴する格好のシーンだったに違いない。結果として、この主人公は担当するスーパーで、大きな売り場スペースを確保することに成功したという王道ストーリーで終わっている。テレビの制作現場など過重労働のメッカであり、荒々しい言葉も当たり前。番組制作者も、こうしたやり取りが問題視されるなどとは想定していなかったことだろう。

筆者は個人的に、どうやっても追い抜けない圧倒的に不利な「負け戦」をあえてメディアに取材させることにしたキリンビールの心意気を思うと、少しだけ同情する気持ちを禁じえない。というのも、そもそも、キリンビールは財閥系(三菱グループ)でお堅い、おとなしい、まじめと評されることが多く、ビール業界でも「優等生」と目される存在。今回のような「泥臭さ」「体育会気質」といえば、アサヒビールの営業マンを形容する言葉だった。

そういった体質の社内に危機感を鼓舞し、お公家体質から抜け出し、野武士のように「攻めていく」新しいキリンビールの姿を見せていきたい、というのが上層部の狙いだったように思えるのだ。番組内でも登場した布施孝之社長は、大阪支社時代に「大阪の奇跡」と呼ばれるほどの実績を上げた人物だという。「挑戦者」として捲土重来(けんどちょうらい)を図ろうとする姿勢を、社員に植え付けたかったのではないか。

確かにそうしたチャレンジスピリットは大切だが、『巨人の星』的な根性主義のやり方に対し、時代の目は思う以上に厳しい。このキリンビールの職場でのコミュニケーションにはいくつも問題がある。そもそも、酒の場での説教、というのは最も癖が悪い。職場で、きちんとコミュニケーションが取ることこそが求められるのであって、酒の力を借りなければ本音トークはできない、という考え方はこの時代、なかなか通用しにくい。

ほかにも問題がある。たとえば、主人公が前年の2倍の売り上げ目標を設定していたという点だ。そもそも、不可能なほど高いゴールを与え、精いっぱい背伸びをさせることで、成長を促すという手法はひととき、経営の神様といわれたGEのジャック・ウェルチ氏が「ストレッチゴール」というキーワードで推進していた。ウェルチの教え子といわれる日本人社長がこの手法を踏襲し、まさに同じ言葉を使って、社内にハッパをかけまくっていたが、ゴムを伸ばしすぎて、切れてしまう人も少なくなかったという。結局、彼は経営の一線を退いた。

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