EUは分裂どころか統合を深める改革に進む 4選が確実なメルケル首相のレガシーに

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折しもユーロ圏の経済は、世界金融危機と圏内の債務危機という2つのショックが招いた長期停滞をようやく脱しつつある。それは同時に、圏内格差の増幅を抑制する役割を果たしてきた欧州中央銀行(ECB)の異次元緩和を修正すべき時期に差し掛かっていることを意味する。

とりわけ国債等の買い入れは、1銘柄当たりの買い入れの上限を33%とする「33%ルール」や、ECBの出資比率に応じて買い入れる「資本キー・ルール」を変更せずに継続することが難しくなっており、2018年には段階的な縮小から停止へと向かわざるをえない。ドイツが嫌う金融政策頼みの状況からの円滑な脱却という面からも、ユーロ圏内の財政面での協調を検討する必要がある。

ユーロ制度の安定のために財政面での改革が不可欠とは言っても、一方的な財源の移転につながるような改革は、ドイツの有権者の理解を得ることはできない。そもそも、EUの条約では、加盟国間の救済を禁じている。法と民意、政治のサイクルの制約の中で漸進的に解決策を探らざるをえない。

改革は漸進的なものだが、将来に希望をつなぐ

9月13日には欧州委員会のジャン=クロード・ユンケル委員長が、欧州議会で施政方針演説を行い、EUの未来像に関する自身の考えを明らかにした。

ユーロ制度改革では、ドイツのヴォルフガング・ショイブレ財務相の提案でもあり、メルケル首相も賛同する「欧州版IMF(EMF)」について、今年12月に欧州委員会としての提案を示す方針を明らかにした。マクロン大統領が公約に掲げた「ユーロ圏経済・財務相ポスト」の常設化の意向も示した。他方で、「ユーロはEU全体の通貨」との立場から、欧州議会とは別に「ユーロ圏議会」を創設する構想は排除、「ユーロ圏予算」もEU予算の枠内に創設すべきとの考えを示した。

EMFは、常設化されたESMの機能を強化するもので、果たすべき機能についての調整は必要だが、比較的早いタイミングでの実現が期待できる。ユーロ圏予算も、新たな財源を設けることは難しいが、EU予算の枠内であれば、EU予算改革の議論と並行して進めることが可能だ。欧州委員会は2018年5月に改革案を提示する方針だ。

ドイツが思い描くEMFはユンケル委員長の構想よりも政策監視に重きを置くもので、ユーロ圏予算は限定的な規模となるだろう。当面実現しそうな改革では、圏内格差の是正に大きな効果は期待できない。それでも、統合を深める改革が進むのであれば、ユーロ分裂すら現実味を帯びていた2017年初までの流れは変わり、将来に希望をつなぐ。

伊藤 さゆり ニッセイ基礎研究所 主席研究員

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いとう さゆり / Sayuri Ito

早稲田大学政治経済学部卒業後、日本興業銀行(現みずほフィナンシャルグループ)を経て、ニッセイ基礎研究所入社、2012年7月上席研究員、2017年7月から現職。早稲田大学大学院商学研究科修士課程修了。早稲田大学大学院商学研究科非常勤講師兼務。著書に『EU分裂と世界経済危機 イギリス離脱は何をもたらすか』(NHK出版新書)、『EUは危機を超えられるか 統合と分裂の相克』(共著、NTT出版)。アジア経済を出発点に、国際金融、欧州経済を分析してきた経験を基に、世界と日本の関係について考えている。趣味はマラソン。

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