AfDは、2013年の選挙では「阻止条項」に阻まれ議席を得られなかった。しかし、今回は、投票日が近づくにつれて、じわじわと支持率を上げ、2大政党に続く3位争いで僅差ながらもトップにおどり出てきた。大連立で2大政党の争点は曖昧化し、中道化が進んだ。AfDは大連立に不満を抱く有権者の受け皿として存在感を増しているようだ。
ドイツのAfDへの支持の広がりは、オランダの自由党やフランスの国民戦線とともに欧州の政治リスクとして警戒された現象だが、さほど材料視されていない。AfDが政権に入り、ドイツがEU懐疑主義に舵を切るといった展開が想定できないからだ。どの党もAfDとの連立を拒んでいるし、AfDの協力を欠けば政権が樹立できないという状況にもない。
ドイツに期待されるユーロ制度改革への貢献
むしろ、総選挙後のドイツに期待されるのは、親EUを掲げるフランスのエマニュエル・マクロン大統領との共同歩調によるEUとユーロ制度改革の担い手としての役割だ。
EUは今年「ローマ条約」の調印から60周年という節目の年を迎え、EUの未来像について協議している。
焦点の1つがユーロ制度の改革、とりわけ財政面での制度改革だ。欧州の脆弱な国の債務危機はユーロ制度の強化を促した。資金繰りの困難に見舞われた国を支援する欧州安定メカニズム(ESM)は常設化された。銀行監督と破綻処理制度は圏内で一元化され、EU共通のルールを土台とする「銀行同盟」の形をとるようになった。
しかし、財政面では、この間の成果は、財政赤字の名目GDP比3%以下などの健全化ルールに基づいて、各国の政策への監視を強化することにとどまってきた。ユーロ圏全体としての望ましい財政政策という視点を欠いているし、過剰債務国ほど成長や雇用のために活用できる財源が乏しいため、圏内の格差是正が進まない。
債務危機後の制度の強化で、ユーロ圏の危機対応力は、以前に比べれば高まっているが、財政面での改革を欠いたままでは、ユーロ圏は持続不可能な不均衡を抱え続けることになる。
ユーロ制度改革の好機は今だ。フランスに続きドイツが国政選挙を終える。マクロン大統領は就任100日で支持率の大幅な低下という試練に直面しているが、5年の任期を全うすることは確実だ。ユーロ制度の改革は、大統領選挙での公約でもあり、意欲的に取り組むだろう。メルケル首相も4選を果たせば在任期間はヘルムート・コール元首相と並ぶ16年となる。ユーロ制度の完成度を高める改革への貢献はレガシー(政治的遺産)となる。
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