人生100年会議、事務局と首相に微妙なズレ そこから建前と本音が透けて見える

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2つ目に、配付資料では、すべての人に開かれた教育機会を確保するには、目下、わが国で手薄なリカレント教育に力点があって、そのためには大学改革が必要という流れになっているが、首相挨拶では、大学教育の機会確保・負担軽減が先に出ていて、その後に大学改革となっている。

日本にある私立大学の約45%は学部単位でなく大学単位で定員割れを起こしているうえ、私立大学の30%弱は学生の就職率が80%以下(全国平均は86.6%)である現状を踏まえると、大学改革が先でなければ、機会を確保しても学生によい大学教育は十分に授けられないのではないか。その大学改革の中には、リカレント教育に注力できるような改革も含めるべきだ。

3つ目に、社会保障制度を全世代型へ改革する点では、配付資料も首相挨拶も同じだが、首相挨拶ではさらに踏み込んで、幼児教育無償化の加速や介護人材の確保対策に言及している。これは、より具体的な対象を示唆するものといってよい。

大学教育での経済的負担の軽減、幼児教育無償化の加速、介護人材の確保には、恒久的な財源がなければ、持続的に実施できない。さらに幼児教育無償化の加速、介護人材の確保、加えてリカレント教育の充実は、わが国の経済・社会に即効性がある形で成果が多くの国民に及ぶものだが、大学教育での経済的負担の軽減は、早急な大学改革なしには、多くの効果は期待できない。

その観点から言えば、リカレント教育の充実が、首相挨拶においてほかの施策の中に埋没した感じで具体性がないのは、何か他意があるのだろうか。

介護問題は社会保障審議会でもできる

介護人材の確保は、人生100年時代構想会議というより、今年末までに議論がさらに進む社会保障審議会介護給付費分科会(厚生労働大臣の諮問機関)での具体的な議論によって、税財源だけでなく介護保険料や利用者負担という多様な財源の確保も考えられるし、介護報酬のメリハリづけでも対応できる。

そうみれば、大学教育での経済的負担の軽減と幼児教育無償化の加速について、どちらをどう重んじて、無節操な借金でなく、今を生きるわれわれの責任で、財源をしっかりと確保できる仕組みを構築できるか。ここに、人生100年時代構想会議の注目点があるだろう。

土居 丈朗 慶應義塾大学 経済学部教授

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どい・たけろう / Takero Doi

1970年生。大阪大学卒業、東京大学大学院博士課程修了。博士(経済学)。東京大学社会科学研究所助手、慶應義塾大学助教授等を経て、2009年4月から現職。行政改革推進会議議員、税制調査会委員、財政制度等審議会委員、国税審議会委員、東京都税制調査会委員等を務める。主著に『地方債改革の経済学』(日本経済新聞出版社。日経・経済図書文化賞、サントリー学芸賞受賞)、『入門財政学』(日本評論社)、『入門公共経済学(第2版)』(日本評論社)等。

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