名門校「武蔵」が守り切る「変わらない勇気」 塾歴社会「最後の楽園」の驚くべき実態
しかしそんな時代の流れを知ってか知らずか、恐ろしいほどのマイペースさで独特の教育理念を守り続ける学校がある。私立武蔵高等学校中学校(以下、武蔵)である。「いまどきこんな学校があったのか!?」と驚くほどの実態を拙著『名門校「武蔵」で教える 東大合格より大事なこと』から一部抜粋する。
武蔵の校内にはやぎがいて、自ら望んでやぎの世話をする生徒たちがいる。それを束ねるのは数学の教員である。曰(いわ)く「ひつじになるな、やぎになれ!」。
「羊は、いつもおどおどしていてまるで自分の意志がないかのように仲間に追従して行動します。羊が大衆迎合の象徴とされるゆえんです。しかしやぎは、信念も主張も強く、信頼する飼い主に対してさえも角を向けることを辞しません。権力や社会に対する批判精神を育むことは教育の最大の目的のひとつです。
時代の趨勢に押し流されたり、根拠のないデマゴギーに翻弄されない知性を身に付けさせたりすることは、学校の重要な役割です。そうすると学校には、やぎがいたほうがいいということになります」。
数学の教員らしい「やぎの証明」である。
生きるために必要な力を
武蔵では、校内できのこを見つけると、なぜか社会の成績が上がるといううわさがある。うわさの火元と考えられる社会科の教員を直撃した。
「おいしくて大きなきのこをたくさん見つけてきたら、それだけで偉いじゃないかという価値観が、私の中にあります。本来生きるためにそういう力は必要だし、そのためには、自然環境全体をとらえて、系統立てて分析して、食べられるものがありそうなところを推測できなければなりません。
それができること自体すごいと思うのです。校内にも食べられるものがいろいろ自生しています。きのこのほかにも、山芋とか木の実とか。本当は『大きい芋を取ってきたやつが勝ち!』みたいな成績付けをしたいのですが、実際にはそんなこと、いくら武蔵でもさすがにできません(笑)」
いや、怪しい。実際はやっているかもしれない。
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