「衰退する企業、しない企業」の決定的な違い 冨山和彦×小城武彦「衰退の法則」対談<後編>
冨山:日本型組織は幸か不幸か、当該組織集団の中で、どのように認められて偉くなるかが最大の動機づけになります。その選定基準も形式ではなく実体的で、みんなは見ていて、敏感に感じ取ります。そこがゆがむと、弱みになってしまうのです。
社長人事は重要なメッセージになる
冨山:ガバナンスの議論で人事の頂点(最終ゴール)が社長だとすると、いちばん堕落しやすいのは社長人事です。どういう基準で社長が選ばれるか。指名委員会を作って社外の客観的視点も入れながら、時間をかけて選考しないと。つねに社外という選択肢も留保しつつ、最強で最も能力のある最高指揮官を選ばなくてはなりません。
小城:私の本では、昼飯、飲み会とたばこ部屋で出てくる話題についても調べたのですが、しんどい会社においては、次の定期役員人事はどうかだったり、あの部長とあの部長の仲が悪いのは実はこんなことがあった、というような、ほとんどが人事や人間関係の話でした。そこには顧客も、市場も、競合もない。これでは外への感度が下がってしまいますよね。
冨山:人材選考では、タフアサインメントで力量を試すことも大事です。日本の会社では、将来的に社長にしたいと思っている、忖度ができて気が利く愛(う)い奴は、タフアサインメントにさらさない。そこで撃ち落とされてはいけないと守ってあげてしまう。
小城:業績評価が甘いのも特徴です。破綻した会社の人事担当者にインタビューしたときに、破綻直前の期末の全部長の業績評価の平均点が100点を超えていたという話もありました(笑)。全部長がしっかり仕事をしていながら、会社が破綻してしまうという珍現象が起きてしまう。評価が甘いと、業績による淘汰が起こりにくいのも問題です。
冨山:ある種の共同体の中、あるいは共同体同士の相互安全保障システムで、お互いに預け合い、「いいね」を交わし合うのでしょうね。
小城:衰退惹起サイクルの予定調和には「相互不可侵条約」も含まれています。ボードメンバーは執行部門の代表の帽子しかかぶっていないので、「俺はお前の管轄対象について言わないから、お前も俺の管轄対象のことは言うなよ」と。だから議論がつねに部分最適になってしまう。それでは取締役の義務は果たしていません。
冨山:確かにそのとおりで、Aカンパニー長は、Bカンパニー長について意見しませんね。