税・財政をめぐる、パワーゲームの行方 官邸の財務省不信が生んだ「検討会合」
パワーゲーム
60人の有識者・専門家のうち、約7割が「やむを得ない」を含め予定通り2014年4月に3%引き上げるべきと主張した。ヒアリングの総時間は13.5時間。ただ、増税による腰折れを警戒する安倍首相が会合に出席し、直接自身の疑問を投げかけることはなかった。
「不測の事態が生じた時、あの時の判断が甘かったと言われるリスクが一方である以上、丁寧に手順を踏みたいという心境は理解できる」──。政府筋は会合の狙いをこう解説する。
しかし、出席者が自身の主張を述べる一方で議論が拡散したままの意見交換会は、不測の事態が生じた時の「言い訳のための会合」(与党筋)とも受け止められた。
森信茂樹・中央大学教授は「政権発足直後ならまだ理解できるが、最終判断の1カ月前になってのキックオフに近いこの種の会合には、違和感を感じる。ほとんど意味のない政治パフォーマンス」と切り捨て、「首相が本来やるべきは、新しい政権のもと、なぜ消費税引き上げが必要で、その使い道がどうなるのか、それによって社会保障が拡充されるのか、消費税引き上げの説明を直接国民に向かって丁寧に説明することで、本末転倒だ」と述べる。
大がかりな舞台装置は「財務省に対するグリップを効かせ、税財政の主導権を官邸にシフトさせることが目的だ」とし、今後の焦点となってくる増税による激変緩和措置としての財政出動で「国土強靭化やTPPに名を借りた予算のばらまき」を許す結果につながる弊害を指摘。「歳出の膨張により目を凝らす必要がある」と、森信教授は代償の大きさを指摘した。
修正論に非現実的の指摘
一方、賛否両論の議論が展開されるなかで、引き上げ幅や時期を変更する議論の多くが「純粋に経済面」だけからの議論で、現実に実施する際のコストや負の影響について、あまり検討されていない点も浮き彫りになった。
浜田宏一内閣官房参与(イエール大名誉教授)は選択肢のひとつとして、毎年1%ずつの引き上げを提案したが、甘利経済財政相によると「純粋に経済面からの指摘だった」という。
実際に法律を修正することになると、与党内の猛反発が予想されるほか、成長戦略を法案化するための秋の臨時国会が消費税国会に変質し、時間的な面も含め、政治的コストが相当加わることになる。
さらに現行は2段階で消費税率10%まで引き上げる道筋が明確に示されているが、仮に2014年4月の引き上げ幅を1%や2%の小幅とすることを決めたとしても、その後の引き上げについて、明確化することができるのかどうか現時点ではかなり不透明だ。放置すれば日本の財政再建の意思が問われかねない危機だとの声も、政府内から出ている。
ただ、安倍首相や菅官房長官は、今回の会合を踏まえ、どのような結論を出そうとしているのか、今のところ方向性をしめしていない。
最終的な決断は遅くとも、10月上旬には最終判断が下される見通しだ。自民党の大島理森・前副総裁は30日のロイターのインタビューで、安倍首相は予定通りの実施を判断すると確信していると話し、首相に迷いはないとの見方を示した。
(吉川 裕子 編集;田巻 一彦)
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