ホンダ「N-BOX」は軽自動車の王座を守れるか まるでミニバン、車内の使い勝手を徹底追求

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スーパースライドシートを導入しつつ、自転車が搭載できるほどの荷室の広さを確保するため、燃料タンクを薄型化するなどの改良も重ねられた。インテリアのデザインを担当した金山慎一郎氏は、「ミニバンで普及している座席間のウォークスルーを、大きさと価格の制約がある軽で実現したことが画期的だ」と自信を見せる。

最新技術を惜しみなく使い、軽量化を実現

N-BOXの車内は自転車も軽々入ってしまうほどの広さだ(撮影:尾形文繁)

スペースだけでなく、重量の課題も持ち上がった。ホンダ センシングなどの新しい機能を搭載したため、70キログラムの部品が新たに追加されたのだ。低燃費や快適な走りも実現するには、旧型よりも車両を重くするわけにはいかない。

結論から述べると、新型N-BOXは旧型と比較して80キログラムの軽量化に成功している。そのための新技術の1つが、センターピラー(車体側面にある柱)で採用された。鋼板同士をくっつける溶接では、点で接合する従来の「スポット溶接」から、面で接合する「シーム溶接」と呼ばれる技術に変更。旧型で使用していた補強用の鋼材が不要になり、軽量化につながった。

ほかにも、ホンダの燃料電池車(FCV)「クラリティ」や欧州ブランドなどの高級車に使われている溶接技術を採用した。ルーフパネルとサイドパネルをつなぎあわせるために用いられる「ルーフ・レーザー・ブレーズ」という技術により、従来これらのパネル同士をつないでいた樹脂部品が不要となったことも軽量化に貢献している。

ホンダ社内では、「なぜ単価の安い軽に、ルーフ・レーザー・ブレーズなどの最新技術を用いるのか」という議論が起きたという。それでもN-BOX向けに設備投資が進んだのは、製造工程の見直しによって設備や新技術導入の費用を十分に吸収できるという見込みが立ったからだ。結果的に、「収益性は旧型N-BOXよりも高くなる」(前出の白土氏)という。

軽が単なる安くて小さい車だという時代は終わった。「ボディサイズに制約がある中でも、各社が軽でも安心と快適性を追求してきている」(日本本部長の寺谷公良執行役員)。N-BOXは車高の高い「スーパーハイトワゴン」というタイプに分けられるが、ここにはスズキが「スペーシア」、ダイハツ工業が「タント」を投入するなど、他社との競争が激しい。

事前受注では2万5000台を獲得し、1万5000台の月販目標を上回った。2代目N-BOXの出足は上々だが、この販売ペースをどれだけ維持できるか。国内事業の”屋台骨”だけに、失敗は許されない。

宮本 夏実 東洋経済 記者

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みやもと なつみ / Natsumi Miyamoto

自動車メーカー、部品会社を担当

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