コッペパンブームを支える日本人特有の感性 「おしゃれなパン」からの原点回帰

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子どもの頃から、店で成形などを手伝いながら育った大平氏。23歳で将来、父のパン屋と併設する洋食屋を開きたいと考え、上京した。専門学校で料理を学び、レストランなどで働いてきた。パン屋で働いたこともあったが、どこの店でも「1分単位で動き、時間に追われて殺伐としている」ことに違和感を覚え、自分は向いていないと感じていた。

「大平製パン」店主の大平氏は、父親からパン作りを教わった(撮影:梅谷秀司)

ところが、知人と開いたイベントで動物パンを展示したところ、来場者から「このパンを食べたい」と言われ、心が動いた。2008年から移動パン屋を始め、2011年10月にボンジュール・モジョモジョを開く。

その後、前から古民家の素朴な外観が気に入っていた不忍通りの雑貨店店主に、「閉店するから次に借りませんか」と勧められて開いたのが「大平製パン」である。

「ボンジュール・モジョモジョ」から徒歩5分という距離の近さもあり、差別化するため、コッペパン中心の店にしようと決めた。

父のパンが一番おいしかった

パン屋を始めるに当たって、大平氏は初めて父にパンだねの作り方から教わり、今まで働いてきたほかのパン屋と父のやり方が異なることに気づく。

「父の作り方は、目分量と感覚なんです。『水は何グラム?』と聞くと『ボウルで半分ぐらい』。『パンだねの温度は気温によっても違うから、触って覚えて』と」。大平氏は、父のパンを「一番おいしかった」と言い、マイペースで楽しんでパンを作れる、父のやり方が自分には合っていると感じている。

具材のレシピも基本は父の店と同様にし、あんパンを粒あん入りコッペパンに、クリームパンをカスタードクリーム入りコッペパンにするなどのアレンジをしている。クリームチーズは父の店にはないが、クリームチーズが好きだから使う。「具材もいっぱい入っていたほうが私はうれしいので、パンと同量入れています」(大平氏)。商品開発の基準が、「自分が好きであること」と明確だ。具材の自由度が高いことも、コッペパンの魅力なのかもしれない。

下町ならではの人間関係の距離の近さもあり、客の反応を直に感じてきた大平氏は、コッペパンの魅力を、「形なのか、見た目なのか。食べると優しい気持ちになれるのではないでしょうか」と話す。

引き戸を開けると懐かしい風景が広がる(左)。イートインスペースも懐かしい雰囲気だ(右)(撮影:梅谷秀司)

一方、今年4月19日に開店した「コパンドゥ3331」は、異業種からの参入だ。

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