北朝鮮の核開発は「戦艦大和」建造に似ている 戦前の日本を考えると経済制裁強化は不安だ

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『アルキメデスの大戦(1)』(書影をクリックすると、アマゾンのサイトにジャンプします)

三田:開戦直前の8月28日、陸海軍、および民間から若手エリートを選抜して開設された内閣総理大臣直属の研究機関・総力戦研究所で対米戦の第1回総力戦机上演習(シミュレーション)が行われました。ここでは、極秘であった真珠湾作戦とアメリカの原子爆弾投下以外、敗戦直前のソ連邦参戦まで、ほぼ史実と同じ展開の末、日本必敗に至る、との結果が導き出されています。

これを見学し終えた東条英機は「實際の戰争といふものは、君達が考へているやうな物では無いのであります」「戰といふものは、計畫通りにいかない。意外裡な事が勝利に繫がつていく」と称して、あくまで開戦の決意を変えなかった。「窮鼠猫を嚙む」の故事もあるように、追い詰められたら弱者も強者に反撃する。アメリカもまさか日本が本当に戦争してくるとは思ってなかったでしょう。

北朝鮮と戦前の日本は似ている

『水を石油に変える人 山本五十六、不覚の一瞬』(書影をクリックすると、アマゾンのサイトにジャンプします)

山本:これは昔の日本の話だけじゃない。今現在の北朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国)にもいえる話だと思うんです。石油を止める、というのは、ほとんど戦争行為に等しい。先ほどの三田さんではありませんが、あまり北朝鮮を追い詰めないほうがいいような。

三田:今の北朝鮮は戦前の日本と似ているかもしれませんね。戦前、戦艦は、今でいう核兵器と同じ扱いで、国際条約で各国ごとの保有数と大きさ(排水量)が定められ、均衡による平和が保たれていた。そう考えると、北朝鮮の核兵器・大陸間弾道弾は、72年の時を経て蘇ってきた北朝鮮版の戦艦「大和」と「武蔵」なのかもしれない。

山本:なるほど。

三田:戦争は莫大な浪費にすぎません。おカネをドブに捨てるようなものです。太平洋戦争で陸軍が使用した軍事費総額は1133億9000万円、海軍は732億8400万円という巨費に達しています。戦艦「大和」の建造費1億4000万円どころではありません。

戦艦大和(写真:AP/アフロ)

そしてアメリカが第2次世界大戦に費やした総額は、米国議会調査局資料で3600億ドル、米国防省資料には3410億ドルと記されています。これを1941年当時の円ドル為替レートで計算すると、1兆5336億円と1兆4526億6000万円となる。つまりアメリカは日本の8.21倍(3410億ドルの場合、7.78倍)もの莫大な金額を投じたことになります。米国議会調査局資料が作成された2002年の物価で換算した場合、3600億ドルは、4兆7100億ドルとなります。この年のドル円為替レートは平均125.3円。つまり現代の日本円に換算した場合、590兆1630億円という天文学的な金額です。

さらに第2次世界大戦でアメリカは30万人もの戦死者を出しています。日本の戦死者は軍民合わせて200万人とも300万人ともいわれています。戦争に真の勝者など存在しない。ただ犠牲者のみが残る。そんな気がしてなりません。

(構成:後藤一信)

三田 紀房 漫画家

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みた のりふさ / Norifusa Mita

1958年生まれ、岩手県北上市出身。明治大学政治経済学部卒業。代表作に『ドラゴン桜』『インベスターZ』『エンゼルバンク』『クロカン』『砂の栄冠』など。『ドラゴン桜』で2005年第29回講談社漫画賞、平成17年度文化庁メディア芸術祭マンガ部門優秀賞を受賞。現在、「ヤングマガジン」にて『アルキメデスの大戦』、「グランドジャンプ」にて『Dr,Eggs-ドクターエッグス-』を連載中。

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山本 一生 近代史家

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やまもと いっしょう / Issho Yamamoto

1948年生まれ。東京大学文学部国史学科卒。石油精製会社勤務の傍ら競馬の歴史や血統に関するエッセイを発表。1997年にフリーになると近代史に転じ、恩師である伊藤隆東大名誉教授のもとで『有馬頼寧日記』の編集に加わり、その後は「日記読み」として戦間期の日記をもとに時代を読み解く作業を行っている。

『恋と伯爵と大正デモクラシー:有馬頼寧日記1919』(日本経済新聞出版社)で第56回日本エッセイスト・クラブ賞受賞。

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