原発、爆発。そのとき、老人ホームは?

自分の家族と要介護者――。守るべき命の狭間で

衰弱する高齢者

白い防護服の警察官が大声をあげた。東風荘には、足が曲がらない人や終末期ケアを受けている人など、座位を保ことさえも難しい人が多くいる。酸素ボンベがなければ呼吸が止まってしまう人もいる。

こんな状況の人たちをバスに乗せろと?

こうした人たちを移動させるには、医療機器が備わっている救急車やドクターヘリが使われるのが通常で、観光バスに乗せるということが志賀にはまったく信じられなかった。介護にかかわってきた人間からすれば、無茶苦茶な話なのだ。

「とにかく早くしろ! なんで早くできないんだ!? 速く歩け!」

防護服の警官がよたよたと歩く利用者に声を張り上げる。その目には利用者の姿は写っていない。職員は、警察官の怒声に焦って利用者が転倒しないよう「ゆっくりでいいから」と声をかけながら誘導した。

寝たきりの利用者は、まず、毛布などで身体をぐるぐる巻きに包み、四肢を固定させた。その状態のまま職員3人がかりでバスの乗降口に担ぎ上げ、バス内部で待機している職員2人に受け渡した。赤ん坊のように毛布に包まれた利用者は、2人がけの直角のシートに斜めに立てかけられたり、身体を支えるために職員を横にはりつかせたりした。

「川内村方面へ向かいます」

バスに随行していた県職員が言った。バスはいっぱいになるやいなや、次々と出発していく。志賀施設長は、避難先は確保されているものだと思っていた。しかし、バスが到着したのは、川内村内の空き地。

バスの中ではすでに、心肺停止に陥る利用者が出始めていた――。

東風荘の避難が終わったのは、震災から10日後。介護環境のある施設に避難できるまでに、利用者73人中、3人が命を落とす結果となり、3.11からの1年間の死亡者数は例年の約2倍となった。

介護物資が足りない

今回、福島県内の高齢者施設の中には、介護環境がまったくない学校、工場、体育館などへ避難した施設が多かった。そこにはどのような課題があったのか。

楢葉町のリリー園は3月12日、いわき市内の2つの学校に緊急避難し、学校の教室でおよそ10日間の避難生活を送った。リリー園は利用者80人の特別養護老人ホーム。約60人の介護職員が勤務していたが、一時避難先である学校から二次避難先である福島県南東の病院に避難するころには、職員は15人程度に減った。

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