一段と混迷の様相を深める、英国とEUの交渉 期待できない離脱協議の短期決着

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アイルランドの国境問題については、英国政府が8月16日に「北アイルランドとアイルランド」に関する交渉方針を示した文書を公表したことで、論点が明確になった。同文書に示した英国政府の方針は、アイルランドと北アイルランドとの間に物理的な国境や検問所を設けないこと、英国とアイルランドの国民の両国間の自由な移動を認める「共通旅行区域(CTA)」の維持、英国とアイルランド和平合意である「ベルファスト合意(1988年)」の尊重など。アイルランドの主張と基本的に一致しており、同国のサイモン・コベニー外相も英国の方針を歓迎する意向を示した。

他方、清算金については、EU側がすでに清算対象となる負債と資産の内容を示しているのに対して、英国政府のスタンスは不透明なままだ。EU側の請求額については600億ユーロ、1000億ユーロなどと報じられている。他方、英国については、8月6日の英紙サンデー・テレグラフが、「政府は最大400億ユーロを支払う用意がある」と報じたが、首相報道官が否定している。8月15日のラジオ番組でデービッド・デービス離脱担当相は、清算金については慎重に協議する方針であるため、10月までの合意は困難との見通しを示している。

英国政府の関税協定の提案にEUは冷淡

英国政府は、第1段階のメイン・テーマである清算金の扱いを棚上げする一方、第2段階のEUとの関税協定に関しては、15日に公表した「将来の関税協定」という文書で、前倒しで方針を表明した。文書では、関税同盟離脱の方針を改めて確認した上で、EUとの間で、「可能な限り自由で摩擦のない関税協定」を締結する方針を示している。

その具体的な手法として2つの選択肢を掲げ、同時に、新たな協定発効までの移行措置として、EUの関税同盟との関係を維持する「暫定協定」の締結も求めた。英国側の要望は次のようなものだ。「暫定協定」の期間中は、EUとの関税ゼロ、通関手続き免除とともに対外共通関税を維持しする。この間、EUとの関税協定とともに、EU域外との貿易交渉を行う。

英国政府の関税協定の提案に対するEU側の反応は冷淡だ。EUの報道官は、英国政府がようやく文書による方針表明に動き出したことを歓迎しつつ、関税協定については、市民の権利や清算金問題に目途がついた後の第2段階に協議する方針を強調した。さらに、単一市場にも関税同盟にも参加しない国との「摩擦のない」貿易は不可能という基本方針も確認した。

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