日立が「好調子会社」を売却できなかった理由 株価上昇が影響し、グループ再編戦略は中断

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だが、株価上昇の理由は憶測報道だけではない。主力の半導体製造装置の業績が極めて好調なのだ。データセンターなどに向けて、3次元NANDフラッシュメモリと呼ばれる新型半導体は供給が追いつかない状態だ。

日立国際の顧客に当たるメモリ半導体メーカー各社は、量産体制の整備に向けて日立国際などから装置を大量に購入。半導体業界は「10年に1度のバブル」ともいわれる活況に沸いている。

日立国際も7月下旬に業績予想を大幅上方修正。売上高1990億円(当初計画比18%増)、営業利益225億円(同29%増)へと引き上げた。これを受け、株価は2900円を突破し、TOB価格からさらに乖離することになった。

親会社の日立にとって、今回の売却延期はかねて進めてきたグループ再編の後退を意味する。総合電機メーカーとして事業構造が複雑化した日立は、2008年度に7873億円という巨額赤字を計上して以来、事業の整理・再編を進めてきた。2010年に社長に就任した中西宏明氏は浮き沈みの激しい事業の撤退を進め、2011年度には当期純利益3471億円と過去最高を更新するというV字回復を果たした。

現状は日立と日立国際にとって「中途半端」

目下の課題は「2018年度に営業利益率8%」という目標(前期は6.3%)に向け、事業の選択と集中をもう一段進めること。ITや社会インフラなどを中核事業に据え、それ以外の事業を切り離す。そこで生み出したキャッシュを中核事業の成長に充てるというのが現在のグループ戦略だ。

TOBは延期になったが、今後も日立、日立国際、KKRらは協議を継続していく方針だ。より高値での売却が見込めるという点では、日立にとって今回の延期は必ずしもマイナスではないだろう。

ただし、日立国際の株高が続けばKKRがTOBを断念することも考えられる。その場合、新たな売却先の選定には苦労しそうだ。KKRとは10カ月近くかけて協議を重ねてきたが、一から候補を探さなくてはならない。

ファンドではなく、半導体製造装置企業に売却する場合も、最近では製造装置企業同士の統合が独占禁止法に抵触するとして米司法当局が反対しており、「これ以上の業界再編は厳しい」(業界大手幹部)状態だ。サプライヤーの交渉力が高まることを警戒する大手半導体メーカーによる横やりもあるとみられ、次なる売却先は限られてしまうだろう。

売却の延期という中途半端な状態は、日立のグループ戦略にとっても、日立国際自身の成長戦略にとっても決して望ましいことではない。売却が長引けば、足元絶好調の日立国際が連結業績に貢献することになるが、短期的な利益に惑わされず、グループ戦略を推し進める覚悟が問われている。

東出 拓己 東洋経済 記者

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ひがしで たくみ / Takumi Higashide

半導体、電子部品業界を担当

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