河野外相の「発信力」は、いきなり秀逸だった ASEAN関連外相会談を取材してわかったこと
テレビカメラも入った場面での王毅外相の発言は、完全公開を前提としており、当然計算されたものだと考えていい。親を絡めて相手を批判する今回の態度は、中国の民衆の間でも疑問視されているようで、「怒って、怒って、また怒って。怒る以外に何かできないのか」などの批判的なコメントがあふれた。
今秋の党大会へ向け、人事評価が本格化し次の役職が確定していく時期に入るので、2013年に外相に就任した王毅氏は国務委員やそれ以上の役職に着くことを念頭に、党内上層部へのアピールしているという見方が強い。
冒頭部分でいきなり火花を散らした両外相だが、会談の中身を知る日本の外交官は「そんなにいつもと変わったところはない」と語る。日本語も流暢で「親日派」と見なされかねない王毅外相が日本にきつく当たることはもはや恒例だ。今年3月にも、歴史認識をめぐって「日本は心の病を治す必要がある」と主張した。
実際に会談の概要を見ると、「外相の相互往来を含め、外相間での対話を強化し、相互信頼関係を深めていくこと、外交当局間の幅広い対話を進めていくことで一致した」との項目があり、日中関係が今回の会談で後退したわけではないことがわかる。また、外務省によると、このところ中国が懸念を示していた台湾問題については議題にならなかったという。
まだ正式に決まっていないが、日本としては、延期されがちな日中韓首脳会談を年内に国内で開催し、来年は、日中平和友好条約締結の40周年ということもあり、一気に関係を改善させ、両首脳の相互訪問を実現しようとしている。
北朝鮮情勢が南シナ海に代わって最重要テーマに
ここ数年、ASEAN関連外相会談のいちばんの焦点は南シナ海情勢だったが、今年の会議では、中国と東南アジアの対立が全体として解消に向かい、それに代わって北朝鮮問題が大きく取り扱われた。
昨年の今頃は、仲裁案での中国側の敗訴を受け、王毅外相がASEANメンバー国へ必死の根回しへ向けて動き回っていた。まさか、1年足らずで中国側がここまで優位に立つとは、日本側には想像できなかったかもしれない。
ロドリゴ・ドゥテルテ大統領の登場で、ASEAN各国の中で中国批判の急先鋒だったフィリピンが、南シナ海問題で譲歩し、中国からのインフラ投資を求める方向へ大転換したことが大きかった。
デ・ラサール大学のリチャード・ヘイダリアン教授によると、昨2016年の時点から中国はフィリピンが今年のASEAN議長国になることを重視し、中比両国は何度も会談を重ねて、今回のASEAN外相会談を迎えた。その目的は、外相による共同声明で仲裁案について触れないようにすること。「フィリピンは北朝鮮や『イスラム国』(注:過激派組織『イスラム国』系の武装勢力が南部ミンダナオ島のマラウィを占拠している問題)といった別の話題を利用し、南シナ海について積極的に参加することを避けた」とまで言い切る。
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