「石つぶて」で名も無き人に光をあてたかった 外務省の腐敗に斬り込んだ清武英利氏が語る

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――警察に関して言えば、捜査技術の伝承という面で、60歳代後半から70歳の、いわゆる団塊の世代が大量退職した影響はありませんか。

ありますね。団塊の世代の人たちが得た、捜査技術や職人の技、あるいは人脈がうまく(現役世代に)継承されていないという問題は、もっと真剣に考えられてもいいのではないでしょうか。

人脈という意味では、携帯電話の中に何百人連絡先があっても、じゃあずっと付き合ってくれる人、本当の情報を教えてくれる人は、どれだけいるの?って聞かれると、少ないんじゃないでしょうか。それでも、10年付き合って何も教えてくれない人に対して、「だから付き合わない」と決めてはダメなんだと思います。

――本の中では、ノンフィクションということもあり、ほぼ実名です。名誉毀損を考えると、実名を出すことにためらいはありませんでしたか。

それはあります。ノンフィクションの世界でも、実名のリスクを避ける傾向に行きつつあるようです。でも、私たちは、官庁に責任ある実名発表を求めています。匿名社会に私は抵抗し、実名報道にこだわりたいと思います。「こういうことが現実にある」という説得力こそが、ノンフィクションの命だと思っていますので。

確かに実名で書くのは難しい。どこで線を引こうかということにいつも悩みます。今回は「現職の1人のみ匿名」にしようと。直接の捜査に支障を来しますから。それ以外の人については「実名で出します」と言って、ケンカしながらも、「あなたが生きた証でしょう」「お互い腹据えてがんばりましょう」と、2年半かけて説得してきました。ここで取り上げた機密費疑惑は、もう十数年前のことですし、情報源の秘匿についても一つひとつ検討を加えました。

だから実質的に、よし書こうと意識してからは、2年半くらいですね。取材期間はもう少し長いのですが。

真っすぐ生きれば、誰かが見ている

――機密費は今、どうなっているのでしょうか。

今も同じように使われていると思いますよ。ただ、流出した官房機密費の内訳の資料を見ると、「えっ、本当にこれだけなの?」と疑惑は晴れません。少なくとも会計検査院は、きちんとすべての項目をチェックするべきです。そして時間の経過を待って公表する。政治っていうのは、そうした闇のおカネを使っていること自体が、国民の不信を買っているわけですから。

外交的な機密があっても、10年、20年後にはクリアにする。聖域のない社会は求めなければ訪れません。

――この本では個性的な人が多く出てきますが、中でもいちばん思い入れがあるのは誰になりますか。

それは主人公の刑事ですね。なかなか真似ができない。清廉というか、野に咲く花というか。うまく立ち回れば出世も再就職も簡単にできたのに、それをしないであえて真っすぐに生きていった。本当はみんなそうしたいし、(できないから)そうやって生きている人を見ると、ほっとする。世の中は誰かが見ているし、この世も捨てたもんじゃない。

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