「石つぶて」で名も無き人に光をあてたかった

外務省の腐敗に斬り込んだ清武英利氏が語る

――わかります。自分の会社もメディアですが、昔ははみ出し者の記者、編集者がいっぱいいました。

自分ははみ出したままでもいい、っていう生き方を選ぶ人は、刑事ドラマにはいっぱいいます。企業ドラマでも、「半沢直樹」で組織にきちんとモノ申して抵抗する人に庶民は拍手喝采するわけですが、あれは実在しない人だから。でも、本当はいる、ということを信じたい。

私はそうした人を探して本に書いています。よく「この人を書きませんか」という申し出もあります。でも有名な人は遠慮しています。無名な人だからこそ、自分のような人間がやるしかない、と思っています。

中には、死ぬときに自分が理想としている人間でありたい、という人に巡り合います。この本に出てくる刑事で、警視総監賞をもらった人もいますが、それは賞金なんかじゃなく、心の中で一級の生き方をしている人間だと思っているわけです。自分なりに満足いく人生っていうのは、やはりモノをきちんと言って、真っすぐ、清廉に、そして激しく生きたことについてくるのだと思います。

自分のテーマはバブルと、バブル社会

――清武さん自身は、記者や球団経営、ノンフィクション作家をやってきましたが、5年後、10年後、あるいはその先には、どんな青写真を描いていますか。

うーん、(作家として)1年に1冊ずつ書いていきたいですが、果たして彼らのように志高く生きていけるかどうか。講堂にいたら最前列でなくて、後ろの方に座っている人を描くことに意義を感じるので。巨大な組織に属しながらも、組織に餌付けされず、きちんと正論を吐けるような人を取り上げていきたいですね。

ただ、そういう人は自分から「はいはい、書いて」とは言わないから、探すのは難しい。もうこの繰り返しです。今3つくらいの仕事を並行していていて、高速道路の3レーンを同時に走っているつもりで生きています。

『石つぶて』(講談社、7月26日発売)は、著者による綿密な取材を基に構成されている(書影をクリックするとアマゾンのページにジャンプします)

今日、刑事さんや元刑事と会って話をしても、「焦らずにあなたの気持ちを待って、その口を開いてくれるまで待ちますから」と言って、諦めないで何度も会い、「今日は話せるところまでお願いします」となるわけです。

人は一面的だから、1つの物語で何人もの人に話を聞くと、A氏とB氏で矛盾が起きてくる。「こっちはこう言って、こっちはこうだ」という場合、A氏とB氏と私の3人で会ったりします。でもいちばん大敵は「忘れた」というやつですね。ペーパーを探したりして補足し、近似値をとったりするから、会話の復元にはすごく時間がかかるし、だから結局、取材期間は3年くらい必要です。

――その意味では死ぬまで現役ですね。

やっぱり私のテーマは、バブル社会とそこで生きた人々。ちょっと一昔前の時代です。自分よりも前の世代は本当の戦争でしたが、バブル戦争のさなか、今回はたまたまその中に刑事がいました。こんなふうに、石つぶての存在である刑事がいて、本になった。

テーマは山のようにあって、来年の今頃も、再来年も、ずっと迷いながらやっているんだと思います(笑)。

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