「石つぶて」で名も無き人に光をあてたかった

外務省の腐敗に斬り込んだ清武英利氏が語る

――むしろ不安は増幅しているのではないですか。

加計学園や陸上自衛隊の日報問題など、省庁の対応に不実を感じることが多い。公共予算についても、公務員が無駄遣いをしている、という気持ちがどこかにあるからでしょう。

汚職摘発は最初は小さくても、小さなところから大きなところにいくことが多い。誰も(追及)できなかったことのひとつが、外務省の機密費だったと思います。警視庁の一刑事が扉をこじ開けなかったら、結局、わからなかった。それもエリート警察官でなく、ややはみ出し型の人が。摘発したことだけがすばらしいのではなく、摘発した後、清廉なままでいることにも感心するのです。

――もう公務員的な出世とは関係ないと。

関係ないですね。警視庁を退職した後にも、培った人脈を生かそうとしない。この本では職業は書いてませんが、ハローワークに行って自分で仕事を見つけています。コネや縁に頼りたくないという骨のある人が以前はたくさんいました。

昔、私がまだ学生だった頃、親が県庁の公務員で幹部クラスの友達の家に遊びに行くと、黒電話がありました。普通の電話なのですが。それで、私が「電話を使わせてくれ」と頼むと、友達は「ダメだ」と。「これは非常時に使うべき公用のもので、いつ何時電話がかかってくるかわからないから、私用に使っちゃダメと言われている」というわけです。けじめをつけていた。その友達のお父さんは、結局、天下りもしなかった。

そういう、誰も見ていないところで、自分の中の規範が非常にしっかりしている人が役所や大企業にいれば、信じられる社会になると思います。

小さな不正を逃すと大きな不正も挙がらない

清武英利(きよたけ ひでとし)/1950年宮崎県生まれ。立命館大学経済学部卒、1975年読売新聞社入社。青森支局や警視庁、国税庁を担当。中部本社社会部長、東京本社編集委員、運動部長を経て、2004年読売巨人軍球団代表兼編成本部長。2011年専務取締役球団代表兼GM・編成本部長・オーナー代行を解任され係争に。現在はノンフィクション作家として活躍。著書に『しんがり 山一證券 最後の12人』(講談社+α文庫)、『奪われざるもの SONY「リストラ部屋」で見た夢』(同)、『プライベートバンカー カネ守りと新富裕層』(講談社)、などがある

――今はみんなが勝ち馬に乗ろうとし、異論を言いづらい空気になっているのかもしれません。”KY(空気が読めない)”になってしまうから。

そういう反骨者たちの脈々たる系譜は残っているし、後輩たちもいるから、わずかながらも息があります。だがそもそも、小さな汚職の摘発すらなかなか挙がらなくなったという時代は、考えなくてはなりません。何かが変わっている。

「ちんけな汚職なんて挙げなくていい」「もっと大きな社会不正を挙げることが警視庁の役割だ」と主張する人もいますが、そこから始めなくては。牽制効果は大きい。市役所と業者の癒着を見逃すと、大きなところにはたどり着けません。必ず誰かが見ているし、私は抵抗人たちに、エールを送りたい。

山一證券破綻でも、最後まで会社に残ったしんがりの人たちは、貧乏くじを引いたのではなく、「誰かがやらなければならなかったから私が手を挙げた」と語っていました。

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